血圧が高い人ほど大腸・直腸がんの発症リスクがアップする

血圧が高いほど大腸・直腸がんのリスクが上がる
血圧が高いほど大腸・直腸がんのリスクが上がる

 あなたは、自分の現在の血圧を正しく把握しているだろうか? もし血圧が高いなら、適切な治療を受けるべき。心筋梗塞、脳卒中、心不全など命に関わる病気の予防につながるだけではない。がん罹患数1位、死亡数2位の大腸・直腸がんのリスク減少につながるかもしれないのだ。

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 血圧が高いほど、大腸・直腸がんのリスクが上がるーー。9月開催の日本心臓病学会学術集会で、東大医学部付属病院循環器内科特任講師の金子英弘医師が発表した。

 金子医師らは、2005年1月~18年8月に日本人の健診・レセプトデータベースに登録された222万112例の高血圧と大腸・直腸がんの発症リスクの関連を検討。対象者は大腸・直腸がん、大腸・直腸ポリープ、炎症性腸疾患の既往がなく、高血圧の治療歴もない成人だ。

「近年、世界的に高血圧とがんの関連が話題になっています。大腸・直腸がんは、世界的にも頻度の多いがんであり、肥満や糖尿病など生活習慣病との関連も報告されていることから、今回、高血圧と大腸・直腸がんとの関連を検討しました」(金子医師=以下同)

 肥満や糖尿病、喫煙は、がんの危険因子であるとともに、金子医師が専門とする心臓病・脳卒中などの循環器疾患のリスク因子でもある。高血圧は循環器疾患の最大のリスク因子であるが、一部のがんとの関係も示唆されているのだ。

 平均1112日の観察期間中、大腸・直腸がんを発症したのは、6899例。これを金子医師らは正常血圧群、血圧上昇群、ステージ1高血圧群、ステージ2高血圧群と4つに分類。正常血圧は120/80(㎜Hg)未満、血圧上昇群は120~129/80未満、ステージ1高血圧は130~139/80~89未満、ステージ2高血圧は140/90以上。17年に発表された米国のガイドラインに基づいて分類した。

「その結果、正常血圧群より血圧上昇群は大腸がんの発症率がやや高く、ステージ1高血圧群、ステージ2高血圧群と血圧が高くなるにつれ、大腸がんの発症率が段階的に高くなりました。そして、年齢や性別などで補正した後も、正常血圧群と比較して、ステージ2高血圧群では大腸・直腸がんの発症リスクは上昇。特に男性では、ステージ1の段階から大腸・直腸がんの発症リスクが上昇しました」

■血圧を下げればリスクは低下する?

 本研究によって、高血圧と大腸・直腸がんの発症リスクの関連が示された。しかし、「血圧が高いから大腸・直腸がんになっているのか」「塩分過多や腸内環境の悪化といった因子が背景に潜んでいるのか」は不明であり、「血圧を下げれば、大腸・直腸がんリスクが低下するのか」についても、今後検討が必要だ。

 日本で高血圧と診断されるのは140/90以上だが、いったん高血圧と診断されると、高齢者や一部の併存症合併例を除き、治療は130/80未満を目指し、家庭で測定する血圧では125/75未満を目指す。

「15年に発表された大規模臨床試験SPRINTにおいても、厳格な血圧コントロールによって循環器疾患を減らす効果が報告されています。今後、血圧と大腸・直腸がんの関係が確立されれば、高血圧の重要性はますます強く認識されるでしょう」

 血圧は体重が増えると上がり、その逆も言える。コロナ禍で運動不足となり少し体重が増えただけでも、血圧上昇につながる場合もある。さらに、これから寒くなる季節は血圧が上がりやすいので、十分に気をつけたい。取り急ぎ、家庭用血圧計でチェックするところから始めよう。

◆計測のポイント

「家庭用血圧計で測定するときは、朝起きて、排尿をし、1~2分安静にしてから。起床後すぐや、慌てた状態だと、正しい血圧が測れません」(金子医師)

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