上皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

心臓トラブルがある人、高齢者、お酒好きは「脱水」に注意

天野篤氏
天野篤氏(C)日刊ゲンダイ

 空気が乾燥している冬は「脱水」を起こしやすい季節です。前回もお話ししましたが、脱水は心臓にとって大敵です。

 脱水状態になると、血液の量が減って、粘度も上がります。1回に送り出す量が減り、流れにくい血液を体全体に送らなければならない心臓は、心拍数を増やして対応しようとするため負担が増大します。

 冬は暖房器具を長時間つけっ放しにしていることも多いため、さらに室内が乾燥して余計に脱水傾向が強まるので、とりわけ注意が必要です。

 中でも、気を付けなければならないのが心臓にトラブルを抱えていたり、心機能が落ちている人です。そうした人たちは、脱水が原因で心不全を起こすケースがあります。しかも、脱水から心不全になった場合、急性腎障害を起こして腎不全を招く傾向が強くなります。脱水によって血液量が少なくなると、腎臓に流れてくる血液量が低下します。加えて、心不全で心臓のポンプ機能が落ちると血液循環が悪くなり、やはり腎臓の血流が低下します。そのため、多臓器不全に陥って、集中治療が必要になるケースが少なくないのです。最悪の場合、命を落とすこともあります。

 また、高齢者も脱水には要注意です。高齢になると、ただでさえ心房細動を起こしやすくなります。そこに脱水が加わると、さらにリスクが高くなるのです。

 冒頭でお話ししたように、脱水で血液量が少なくなると、心臓は心拍数を増やします。心臓に大きな負担がかかることで心房での電気信号に乱れが生じ、心房細動につながります。心房細動は心臓が細かく不規則に収縮を繰り返す病気で、心臓内に血栓ができやすくなるため脳梗塞を起こすリスクがアップします。脱水によって血液がドロドロになっていると、なおさら血栓がつくられやすいので、脳梗塞を合併する危険がさらに高まるのです。

■酔ったままお風呂に入ると危ない

 高齢者だけでなく、40代前後の働き盛りの世代も、脱水に注意すべき状況があります。新たな変異株がどう推移していくかまだわかりませんが、新型コロナウイルスの感染拡大がひとまず落ち着いたことで、年末年始に会食や飲み会などでお酒を飲む機会が増える人も多いでしょう。飲酒量が増えると、体内でアルコールを分解する際に水が必要になるため、脱水傾向が強くなります。また、アルコールによって利尿作用が促進されるため、取った以上に水分が排出されてしまいます。

 お酒を飲んでいい気分で帰宅してすぐにバタンと寝てしまうと、就寝中に脱水症状を起こして心臓トラブルが発生するリスクがあります。また、そのまま入浴するなど血圧を急激に変動させる状況をつくると、これも心臓トラブルを招きかねません。とりわけ、酔ったまま湯船につかってポカポカと温まり、気持ちよくなってそのまま寝てしまうのは非常に危険です。

 自動保温機能が付いている浴槽であればまだいいのですが、そうではない場合、お湯の温度がだんだん下がってきて体温も低下していきます。すると、血管が異常に収縮する攣縮が起こり、心臓が虚血状態に陥ります。さらに、体温が低下すると、利尿作用が促されるなどして体内の水分バランスが変化し、脱水状態になります。そうしたトラブルが重なって、命に関わる危険があるのです。

 東京都監察医務院のデータによると、東京23区では年間約1400人が入浴中に亡くなっていて、低体温症の手前くらいの状態で心臓の冠攣縮を起こして死亡したケースも見受けられます。そうした死亡事故のベースには脱水があるといえます。

 ほかにも、糖尿病がある人は脱水に注意してください。糖尿病によって血液中のブドウ糖が多くなり過ぎると、腎臓はブドウ糖を水分と一緒に尿として排出します。尿の量を増やすには、それだけ体内の水分を使わなければならないため、高血糖の人は脱水状態になりやすいのです。

 これまでお話ししてきたように、脱水は心臓トラブルにつながります。糖尿病の人はもともと血液がドロドロになりやすい傾向があるので、なおさら気を付ける必要があります。

 次回は脱水を防ぐための水分摂取についてお話しします。

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天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。

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