感染力が従来株より強いといわれるオミクロン株、プラスアルファの感染対策として期待できるのが漢方薬だ。漢方薬に詳しい東邦鎌谷病院内科の柳一夫医師に聞いた。
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「漢方薬のコロナに対する臨床試験は行われていませんが、私は経験値から、漢方薬が予防・初期治療薬として有効と考えていますし、その目的で使用している人はかなりいます」
風邪症状に効果があり、手軽に入手できて保険収載されている漢方薬は葛根湯をはじめ、いくつかある。柳医師が推すのが荊芥連翹湯だ。
柳医師は、荊芥連翹湯で院内でのクラスター発生を食い止めた経験がある。2020年3月末、がんの入院患者のコロナ陽性が判明。コロナ感染拡大が始まった当初であり、濃厚接触したスタッフにはマスクをしていない者もいたが、PCR検査の結果、1人も陽性者がいなかった。柳医師の提案のもと、濃厚接触者を含めスタッフ全員が、コロナ対策で荊芥連翹湯を服用していた。
「荊芥連翹湯は結膜、鼻腔、気管などの上気道や皮膚の炎症を抑える漢方薬で、明治時代に創薬された日本の漢方薬です。肺で増殖しやすいデルタ株に対し、オミクロン株は、肺などの下気道よりも鼻や喉などの上気道で増殖しやすい。荊芥連翹湯は、オミクロン株では一層の効果が期待できるとみています」
柳医師が使い方として勧めているのは次の方法だ。予防薬としては、1日1回、帰宅後、または寝る前に1包を服用する。日中、濃厚接触したかもしれないと感じた時には、昼に1包を追加しても構わない。
■もしかして…と思ったら1日3回
オミクロン株の初期の症状は、咳や鼻水、鼻詰まり、喉の痛みなど。家庭内感染した人の話を聞くと、「家族が『風邪っぽい』と言っていたら、翌日には熱が出てコロナ陽性。自分も風邪だと思って油断していて、家庭内感染した」。
「風邪を疑ったらすぐに1包を服用し、それを1日3回。その後、検査で確定診断をつけてください。もしコロナと確定したら、荊芥連翹湯を1日3回7日間。米メルク開発の経口抗ウイルス薬モルヌピラビル(商品名ラゲブリオ)を処方された場合は、重症化予防効果が30%といわれているため、やはり荊芥連翹湯を1日3回7日間、併用することをお勧めします」
1月14日には米ファイザーが経口の抗ウイルス薬パクスロビド(商品名リトナビル)を承認申請。まもなく承認が下りる見通しだ。
「パクスロビドは重症化予防効果が90%ですので、これが処方された際には、荊芥連翹湯の併用は必要ないでしょう」
荊芥連翹湯は、病院で医療用漢方薬として処方してもらえ、また、インターネットやドラッグストアで一般用漢方薬として入手できる。ただし、一般用漢方薬は、1日の服用量が医療用の約半分に設定されている。
「用量が半分だからといって予防効果が半分になるわけではないため、一般漢方薬を予防薬として服用する時は、表示されている量で構いません。治療薬として服用する時は、規定量の倍量の服用をお勧めします」
なお、医療用を病院で処方してもらうには、慢性副鼻腔炎、慢性鼻炎、慢性扁桃炎、尋常性ざ瘡(にきび)などと診断されることが必須(保険診療の場合)。予防薬の処方も保険診療では禁止されているので、「コロナの予防のために」と言っても処方されない。
「いつコロナに感染するかという不安を胸に抱えて生活することを考えると、保険診療で手に入れるより費用はかかるかもしれませんが、インターネットなどで事前に荊芥連翹湯を入手し、もしものときに備えておく方がいいのでは、と考えています」
重症化リスクの高い高齢者や基礎疾患のある人と同居していれば、より感染対策に敏感にならなければならない。また、オミクロン株がピークアウトしても、次の株が猛威を振るうかもしれない。荊芥連翹湯を、コロナ対策の一つに加える価値は大いにある。