新型コロナウイルスへの「新たなる武器」が! 日本人医学者が英医学誌に発表

ソルボンヌ大学医学部の根来秀行教授
ソルボンヌ大学医学部の根来秀行教授(提供写真)

 ソルボンヌ大学医学部の根来秀行教授のグループが、新型コロナに対する新しい治療メカニズムをつきとめ、その論文が英国医学誌に掲載された。その内容について、根来教授に取材した。

「Expert Review of Anti-Infective Therapy」1月号に掲載されたのは「ウイルス性障害に対する5-アミノレブリン酸(5-ALA)とクエン酸第一鉄ナトリウム(SFC)の治療可能性」。5-ALAとは自然界に存在するアミノ酸。細胞内に取り込まれるとミトコンドリアと呼ばれるエネルギー工場を活性化する。そのとき一時的にプロトポルフィリンIX(PPIX)に変換される。このPPIXにはジカ熱、デング熱、A型インフルエンザなどのウイルスを抑制する抗ウイルス作用があるという。

「PPIXはその後、鉄と結合してヘムという物質になります。ヘムは血液の中で酸素を運搬するヘモグロビンになったり、ストレスなどで発生した活性酸素を無毒化するカタラーゼになったりと、体を防御するための役割を担っています。しかも5-ALA単体ではダメですが、SFCと一緒だと強力にHO-1を誘導することが私たちの研究でも分かっています」

 HO-1とはヘムを分解するヘムオキシゲナーゼのこと。細胞が活性酸素などにさらされて危機に陥ると、抗酸化活性ならびに細胞保護作用を発揮する。

 具体的には、活性酸素のもとになる物質の生成を抑えたり、炎症性サイトカインを抑えたりする。実際、複数の研究で5-ALAとSFCの組み合わせによる抗炎症・抗酸化作用が報告されている。一方、新型コロナウイルス感染重症者においては血中HO-1が減少することが分かっている。HO-1産生を促すことで、サイトカインストームを抑制し、重症化を防ぐことが期待される。

「ソルボンヌ大学などの研究で、新型コロナと近縁とされるSARSウイルスへの効果も報告されています。グリーンモンキーの細胞を5-ALAとSFCで48時間前に処理すると感染が阻止され、ヒト結腸由来の細胞でも感染が強力に阻止されたとの研究もあります」

■国内外で治験も始まっている

 5-ALAとSFCは日本と一部の中東諸国で栄養補助食品として承認されている。そこで、慢性閉塞性肺疾患の喫煙者を含む新型コロナ症状の患者6人に投与したところ、標準的な治療を受けた新型コロナ患者よりも回復時間が早かったとの報告もある。ここで、G4構造を制御することが新型コロナウイルスの増殖を抑える新たなメカニズムとしてのポイントになるという。

「DNA構造は、通常は二重らせん構造でゲノム情報の正確な伝播に寄与しています。一方、K+などの1価イオンが存在する生理的条件下で、グアニンが4つ並んだG-カルテットという平面構造を取り、それらが重層化し、『グアニン4重鎖(G4)』と呼ばれる安定的な高次構造を形成することがあります。これらは染色体の末端にあって細胞分裂のたびに短くなり、『命の回数券』と呼ばれるテロメア領域に多く存在しています。実はこのG4はRNAにもありDNAよりも安定していて、RNAG4は新型コロナウイルスにも存在し、増殖に関係することがわかっています。5-ALAとSFCが細胞内で代謝されたときにできるポルフィリンはG4と結合しやすく、新型コロナウイルスのG4に結合すれば感染後の増殖を防ぐ可能性があります」

 新型コロナウイルスは日本で400万人を感染させ、2万人超の命を奪っている。そのウイルスを攻撃できるヒントが私たちの身の回りにある物質の中にもあるとは意外だ。

 では、そうした物質をたくさん取れば新型コロナを予防し、症状を改善できるということなのか?

「そういうことではありません。重要なのはG4構造、HO-1をターゲットにした新しい治療メカニズムをどのように応用するかです。実際、私の研究室などでは5-ALAとSFC以外の物質でも、これらのメカニズムをより効率的に操る研究が進行しています。臨床で有用と判断するには、さらに遺伝子レベルでのメカニズムを科学的に検証しつつ、実際の効果や安全性、どんな薬剤をどのタイミングで、どのくらいの量を摂取するのがいいのか、などを多施設でのランダム化比較試験を長期に行い検証しなければなりません。素人考えで行うのは危険です」

 5-ALAとSFCを組み合わせて新型コロナ感染者に投与する治験は、国内外ですでに始まっている。早期の治療薬の実現を期待したい。

関連記事