がんと向き合い生きていく

患者にとっては嫌な「骨髄穿刺検査」は一瞬で終わる

佐々木常雄氏
佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 私は学生時代、高熱とリンパ節腫大があって白血病が疑われ、入院した時に「骨髄穿刺検査」を受けました。腹ばいになり、上後腸骨棘と呼ばれる仙骨の上部横にある出っ張りのところを局所麻酔して、二重(内筒と外筒)になった太い針を刺し、骨髄液を採取します。最近は横向きに寝た側臥位でも行われているようです。

 骨の髄まで太い針が刺さるので、被験者は刺された場所を中心に重苦しさを感じます。

 ある程度、深く刺さったところで針は動かなくなり、そこで内筒を抜きます。そして外筒に20㏄の注射器を当て、一気に吸引します。一瞬ですが、被験者は痛みのような感覚で、「うっ!」と声が出そうになります。

 これで骨髄液の採取は終わりですが、細胞表面マーカー、染色体分析、遺伝子検査を行う場合は、ヘパリンを少量加えた注射器を用意しておき、もう一度、骨髄液を吸引してスピッツと呼ばれる容器に分注します。

 骨髄穿刺は、胸の真ん中の胸骨でも行われます。背臥位(あおむけ)で寝て、胸の真ん中を消毒し、滅菌済みの中央に穴があいた布をかぶせます。そこで同様に麻酔し、骨髄液の採取を行うのです。胸骨の場合、体表から浅い位置に骨があるのでやりやすいのですが、被験者にとっては針を刺す場所が顔に近いので、嫌な印象を受けるのではないでしょうか。

 私が国立がんセンター(現在の国立がん研究センター)でレジデントを務めていた頃、ある決まった曜日に外来患者の骨髄穿刺当番に当てられていました。患者は外来診察を中断し、骨髄穿刺を行う処置室にやってきます。

 検査はカーテンの奥にあるベッドで行われます。骨髄穿刺を実施する際は、術者、看護師、補助担当(プレパラートにスメアを引く)の計3人が必要です。約0.3ミリリットルほど吸引された骨髄液は、すぐにガラスのプレパラートに薄く引かれ、ドライヤーの冷たい風で乾かします。このプレパラートが5~6枚できると血液検査室に運ばれ、ギムザ染色が行われます。1時間ほどで染色は終了し、その段階で顕微鏡観察が可能になります。さらに、残った骨髄の凝血塊をホルマリンに入れて、病理検査に出します。

 こうした骨髄穿刺検査は、白血病、再生不良性貧血、多発性骨髄腫、他に原因不明の貧血、血球減少症などの診断のために行われます。たとえば、急性白血病の場合、末梢血の像では分からなくても、白血病細胞が骨髄に存在していれば、それで診断できるのです。

■「骨髄生検」ではより太い針を刺す

 骨髄穿刺を行っても、骨髄が吸引されない場合があります。これを「ドライタップ」と称していました。

 たとえば、めったにない病気ですが骨髄線維症が該当します。このような時は、「骨髄生検」を行います。骨髄生検は胸骨を避けて腸骨で実施します。皮膚に0.5センチほどのキズをつけ、骨髄穿刺針よりもやや太い針を刺します。針がある程度入ったところで外筒だけをさらに進め、がっちり入ったら針を少し斜めに振り、針の先の骨髄がちぎれたところで全体を引き抜きます。針の内筒の中に、骨も一緒に採取されてきます。そのままホルマリン液に入れて、病理検査に出すのです。

 被験者にとっては、骨髄穿刺だけでも嫌な検査なのに、骨髄生検は針が太いこともあってもっと嫌なのではないでしょうか。ただ、骨髄穿刺とは違って、一気に吸引される「うっ!」という感じはありません。

 骨髄穿刺も骨髄生検も数分で終わります。私の経験からも、骨髄穿刺で嫌なことは、麻酔の注射が痛いことと、注射器で骨髄を吸引される時の一瞬だと思います。

 白血病など血液の病気では、診断の時以外にも、治療中や治療後の骨髄の状態を把握し、次の治療のタイミングを計るため、検査が何度か行われる場合もあります。

 検査では、被験者にいろいろ話しかけるなどしてリラックスしてもらうのが良いのですが、「針を刺す」のですから、被験者は緊張しないわけにはいかないと思います。

 最近は、以前ほど頻回には行われなくなったようですが、患者にとっては何回だろうが嫌な検査でしょう。でも、一瞬で終わる、必要な検査なのです。

佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

関連記事