コロナ禍でも注目 最新医療テクノロジー

AIを活用した「人工膵臓」の開発 チューブ不要のパッチ式

持続血糖測定器
持続血糖測定器(テルモ提供)

 1型糖尿病患者では、一日に何度もインスリン注射が必要になる。そのインスリン注射を自分で打たなくて済むシステムが「人工膵臓(すいぞう)」。正式には「インスリン自動投与制御システム(AIDシステム)」という。欧米ではすでに臨床使用されており、日本では医療機器メーカー「テルモ」(東京都渋谷区)が開発を進めている。

 テルモが実用化を目指す人工膵臓の仕組みは、どんなイメージになるのか。同社のホスピタルカンパニーDM・ヘルスケアグループ長の木川善也氏が言う。

「腹部に貼る『持続血糖測定器』と『パッチ式インスリンポンプ』、そしてAI(人工知能)によるインスリン投与制御アルゴリズムを搭載した『スマホ型端末』で構成されます。持続血糖測定器が間質液中のグルコース濃度を5分間隔で連続的に測定し、そのデータがスマホ型端末に送られ、管理する食事や運動の情報と合わせて、AIが最適なインスリン量を算出します。その結果をインスリンポンプが受信し、本物の膵臓のように微調整されたインスリンが持続的に自動投与されるのです」

 食事や運動をするときだけは血糖値の振れ幅が広くなるので、食前に食事量のデータを、運動の際にはそのデータをスマホ型端末に打ち込む必要があるものの、それ以外は患者が細かい設定を行う必要がなくなるという。インスリンポンプは機械の部分が脱着式で、入浴時には機械だけ外し、3日に1回交換する。持続血糖測定器は装着したまま入浴でき、10日に1回交換する。

パッチ式インスリンポンプ
パッチ式インスリンポンプ(テルモ提供)
5年以内に実用化決定

 人工膵臓で構成される機器は、パッチ式インスリンポンプは自社製品を使うが、足りない技術は海外企業との提携によって補う。パッチ式インスリンポンプは、インスリンを送るチューブのない構造のポンプで、2018年にテルモが国内初の製品を発売している。

 持続血糖測定器は18年に提携し国内での独占販売権を取得しているデクスコム社(米)の最新機種を採用。スマホ型端末はダイアベループ社(仏)が開発したインスリン投与制御アルゴリズムを搭載した専用端末を使用する。ダイアベループ社はすでにパッチ式でないチューブ式のインスリンポンプを販売する会社と提携して、連動させたAIDシステムを欧州で展開している。欧米のAIDシステムは、どれもチューブ式のポンプを使っているという。

「従来のチューブ式インスリンポンプは、ズボンのベルトループなどに常に装着しておく必要があり、トラブルの原因にもなりました。比べてパッチ式は患者さんにとって装着の抵抗感が少なく、パッチ式を使ったAIDシステムが実現すれば、治療効果とQOL(生活の質)を同時に向上できると期待しています」

 今後、5カ年中の実用化を目指しているという。

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