特殊な心筋梗塞「MINOCA」はどんな病気なのか 世界中で注目

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 去る3月11~13日に神戸で開催された第86回日本循環器学会と共催のアジア太平洋心臓病学会では、「MINOCA(ミノカ)」と呼ばれる“特殊な心筋梗塞”が高い関心を集めたという。いったい、どんな病気なのか。東邦大名誉教授で循環器専門医の東丸貴信氏に詳しく聞いた。

 MINOCAとは「冠動脈の閉塞を伴わない心筋梗塞」のことで、2013年にアデレード大学のベルトーラメ医師によって提唱され、近年、世界的に注目されている。

 心筋梗塞は、心臓に酸素や栄養を送る冠動脈が詰まって血液が流れなくなり、心筋が壊死して働かなくなってしまう疾患だ。多くの場合、冠動脈の動脈硬化が進んで血管の内壁にプラーク(コレステロールの塊)ができ、このプラークが破綻して血栓が作られ血管を閉塞させる。突然の激しい胸痛が長く続き、同時に動悸、息切れ、冷や汗、めまいなどの症状が表れる。迅速に治療しなければ死に至る危険もある。

「一般的に心筋梗塞は、突然起こった胸痛などの症状と、心電図上のST上昇(波形のST部分が高い)の異常、血液検査での心筋トロポニンやCK(クレアチンキナーゼ)といった心筋逸脱酵素の上昇、心エコー検査での心臓壁の動きの低下を示す所見などから診断されます。さらに冠動脈造影検査を行うことにより、ほとんどの例で冠動脈に50%以上の狭窄や閉塞が認められます。しかしMINOCAでは、胸痛などの症状や各検査で心筋梗塞の病態を示しているのに、冠動脈の閉塞が見られないのです。同じように冠動脈の閉塞がないNSTEMI(ノンステミ:ST上昇を伴わない心筋梗塞)というケースもありますが、その場合は冠動脈が何カ所も狭窄しています。ところがMINOCAは狭窄も見られません」

 通常の場合、心筋梗塞と診断されれば、速やかに治療が行われる。冠動脈が詰まっている場合、経皮的冠動脈インターベンション(PCI)と呼ばれる治療が実施されている。足の付け根や手首からバルーンが付いたカテーテルを挿入し、冠動脈の詰まっている箇所に到達したらそこでバルーンを広げて血管を拡張し、血流を再開させる。

 NSTEMIでは、抗凝固薬や血小板凝集抑制薬などによる血栓予防、β遮断薬による交感神経を抑える治療が行われるケースが多いという。

「しかしMINOCAは、胸痛など心臓の虚血が疑われる症状があり、心筋トロポニン値が一過性に上昇していても、冠動脈造影検査で冠攣縮や狭窄が認められない。さらに心エコー検査やMRI検査を行っても、たこつぼ心筋症、心筋炎、心筋症といった胸痛や息切れの原因になる疾患もありません。そのため、診断すらつかない場合も少なくないのです。そのままとくに治療は行われずに経過観察とされ、病状を悪化させてしまうケースが危惧されています」

 海外では、MINOCAは心筋梗塞全体の5~10%が該当すると報告されていて、一般的な心筋梗塞の患者に比べてやや年齢が若く、女性、非喫煙者、非糖尿病、非肥満が多いという。また、脂質異常症や高血圧症の人も少ないとされる。冠動脈疾患において、ハイリスクとされる因子を持っていない人に患者が多いといえる。

「予後については、院内死亡率が0.9~1.1%、1年死亡率は3.5~4.9%で、一般的な心筋梗塞(それぞれ3.2%/6.7%)より良好というデータもありますが、ほとんど差がないという報告や、逆に悪いというデータ(危険度1.16~1.27倍)もあるため、軽視することはできません。いずれにせよ、しっかり診断されたうえで適切な治療が行われることが大切です」

■病院によっては見逃される可能性も

 なぜMINOCAが起こるのかについてはまだはっきりしていないが、いくつか原因が指摘されている。

「まず、冠動脈内のプラークが不安定になって破綻することが一因と考えられています。プラークの破裂、びらん、石灰化結節などが生じると、そこに血栓ができて、より末梢の血管に詰まることがあります。また、末梢の血管はけいれんしやすくなるので、血栓も併せて虚血が生じる可能性があります。OCT(光干渉断層法)と呼ばれる血管内画像診断法で、MINOCA患者の冠動脈を診ると、半分に破綻しそうなプラークが確認されたという報告があります。また、冠動脈の解離や機能異常も原因と考えられ、冠動脈攣縮や微小血管攣縮による循環障害も認められています。ほかにも、一部のMINOCA患者では血液が固まりやすいと報告されていて、血栓塞栓症を起こす心房細動やリウマチ性弁膜症なども原因のひとつに挙げられます」

 MINOCAが疑われる場合、冠動脈造影検査の詳細な解析、冠動脈内エコー検査、OCT、血管内視鏡検査などを実施して原因を調べ、それぞれの病態に応じた治療を行う必要がある。NSTEMIと同じように、抗血栓薬、β遮断薬、脂質を下げるスタチンなどがよく使われている。

「しかし、そこまでの詳細な検査を行ってくれる施設は少なく、MINOCAを見逃してしまうケースもあります。ですから不安があれば、医師にMINOCAについてたずねたり、詳細な検査ができる医療機関を紹介してもらうのが良いと思います」

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