コロナ禍でも注目 最新医療テクノロジー

頭にかぶる「ヘルメット形PET装置」認知症の診断で期待される

検査のイメージ写真
検査のイメージ写真(提供)量研

 全身のがんを一度に調べることができる検査機器「PET装置(PET/CT)」。腕の静脈から陽電子(ポジトロン)を放出する検査薬を注射し、その体内の分布を特殊なカメラでとらえて画像化する。

 がんの他にも、アルツハイマー病、てんかん、心筋梗塞などの診断にも使われている。現在は薬剤が集まる様子を撮影するPETと、臓器の形状を撮影するCTを組み合わせたPET/CT検査が一般的で、一度の検査で両方の画像が重ねて表示される。

 そんなPET装置を頭部専用の検査機器として特化させた「頭部専用PET装置 Vrain」が開発され、今年1月に発売された。主に脳腫瘍、脳血管障害、てんかん、アルツハイマー病をはじめとする認知症の診断に使われる。

 開発したのは国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(以下、量研)と、アトックス(東京都港区)。Vrain開発の経緯を量研・量子医科学研究所グループリーダーの山谷泰賀氏はこう言う。

「がん診断に活躍してきたPETですが、これからは健康長寿に向け、認知症や高次脳機能障害の診断で期待されています。それは認知症の解明、治療薬開発、スクリーニング法開発において基準となるのがPETだからです。しかし、国内のがん患者は年間100万人で、600台のPETはフル稼働しています。そこで、頭部検査に特化した高精度で小型な普及型装置が求められていたのです」

 Vrainは椅子型の装置で患者は座ったままの姿勢でいると、上から帽子をかぶるようにヘルメット形の検出器部分がゆっくり下りてきて、検査が始まる。静脈から検査薬を注射するなどの検査手順は従来と同じだ。

 従来のPET装置に必ず組み込まれていたCTが不要なので、被ばく量を従来の数分の1に抑えることに成功。装置の設置面積も約5分の1になった。そして、最大の特徴は世界初の頭にかぶる半球形の検出器。これは世界最小(直径約28センチ)で量研の特許技術だ。

「従来の装置は患者さんが直径80センチくらいの検出器リングをくぐりますが、頭部と検出器の距離が大きく開くので画像の解像度が低くなります。一方、Vrainの検出器は頭部にフィットするので分解能が向上し、非常に高画質の描出が可能になりました」

 頭部専用に特化したことで装置の価格が安く抑えられ、設置場所も省スペースで済む。将来的に認知症診療の進歩とともに、主にクリニックの導入が期待される。

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