進化する糖尿病治療法

お酒を飲まない人の肝炎は「2型糖尿病」の低血糖リスクを上げる

写真はイメージ
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「NAFLD(ナッフルド)」が2型糖尿病の低血糖リスクを上げることを示すデータが、韓国の研究者によって、米国医師学会が発行するオープンアクセス医学雑誌「JAMA Network Open」(2月)に掲載されました。NAFLDは、肝炎ウイルスやアルコールを原因としない脂肪肝の総称で、日本語では「非アルコール性脂肪性肝疾患」となります。

 肝細胞に脂肪が蓄積した状態が脂肪肝ですが、これが進行するとやがて慢性肝炎となり、そのまま治療をしないでいるとさらに肝臓の細胞が正常に働かない肝硬変となり、そのうち一部は肝臓がんに至ります。

 現在、感染ウイルスの治療が確立されつつある中、とても重要な疾患です。

 肝硬変になると、食べ物から消化吸収されたブドウ糖が肝臓で処理されないため食後の血糖値が高くなりますし、また、血糖値を上げるホルモン(グルカゴン)の値が高くなっても肝臓がうまく反応できないため血糖値を上げられず、低血糖を起こしやすくなる可能性があります。

 一方で、肝硬変に至っていないNAFLDでは、2型糖尿病患者の低血糖リスクがどうなるか、十分には明らかになっていませんでした。

 韓国の延世大学の研究者は、韓国の国民健康保険制度に基づく健診データ、医療費請求データを用いた後方視的コホート研究(過去にさかのぼって確認する研究)を実施。

 2009~12年に健診を受けた20歳以上の成人のうち、2型糖尿病と診断されている人において、NAFLDと重症低血糖との関連を検討したところ、脂肪肝指数(FLI)60の人は、30未満の人に比較して、肥満の有無にかかわらず、救急外来受診または入院を要する重症低血糖のリスクが高いとの結果でした。

 これは、低血糖のリスクに影響を与える因子(年齢、性別、喫煙・飲酒・身体活動習慣、低血糖を起こしやすい糖尿病薬の使用、過去3年以内の重症低血糖の有無、高血圧・慢性腎臓病、心血管疾患の既往など)を調整した後の結果になります。

 また、重症低血糖を起こした人はそうでない人と比べて、高齢で、BMIが低い低体重者で、女性の方が男性よりリスクが高いことも分かりました。

 同じアジア人とはいえ、韓国人のデータが日本人にそのまま当てはまるとは言えないものの、重症低血糖は命にも関わる重篤な症状ですから、NAFLDの人は低血糖に、より注意をすべきことが初めて示唆されたと言えるでしょう。

■自己判断で放置している人も

 NAFLDは、欧米で20~40%、日本で9~30%と報告されていて、12年の日本での大規模調査では29.7%という数字が出ています。エタノール換算で男性30グラム/日、女性20グラム/日未満の飲酒量でNAFLDを発症し、ほとんど進行しないNAFL(非アルコール性脂肪肝)と、肝硬変や肝臓がんの発症につながるNASH(非アルコール性脂肪肝炎)に分かれます。

 NAFLDは血液検査や画像検査で診断がつきますが、NAFLかNASHかは、生検を行い病理学的に鑑別するしかありません。

 NAFLDが判明したからといって、つらい肝生検を全員に行えるわけではないので、NAFLDが判明したら、すべからく、その症状を進ませないための治療が必要です。

 それは、肥満があるなら食事や運動療法による減量(まずは、体重マイナス7%を目指す)、糖尿病、高血圧、脂質異常症などの基礎疾患があるなら、それらに応じた薬物治療になります。

 ただ、肝臓は沈黙の臓器といわれる通り、進行するまで自覚症状がありませんし、特にNAFLDの人は、お酒を飲まない、飲んでも少量だからか、肝臓が悪くなるとは夢にも考えていない人が珍しくありません。過去に肝機能が悪いと指摘されたことがあるのに、「大丈夫だろう」と自己判断で、放置している人も少なくありません。

 しかし、特に太っている人は、NAFLDの可能性が否定できません。健康診断をしばらく受けていない人は、肝機能に異常がないか、ぜひ調べてみてください。

坂本昌也

坂本昌也

専門は糖尿病治療と心血管内分泌学。1970年、東京都港区生まれ。東京慈恵会医科大学卒。東京大学、千葉大学で心臓の研究を経て、現在では糖尿病患者の予防医学の観点から臨床・基礎研究を続けている。日本糖尿病学会、日本高血圧学会、日本内分泌学会の専門医・指導医・評議員を務める。

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