コロナ第7波に備える最新知識

空気感染が注目されるが…「飛沫」を浴びた料理への警戒心が薄れていないか?

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 今年3月23日に米国科学技術政策局長で米大統領副補佐官がホワイトハウスのHPに「空気感染が最も一般的な経路」と投稿した。その5日後には国立感染症研究所が新型コロナの感染経路について新たに「エアロゾル感染」を認めた。エアロゾルは咳やくしゃみなどで吐き出される粒子のひとつ。飛沫より小さい5マイクロメートル未満の大きさで、空気感染するウイルス本体などのように長期間空気中を漂い、感染力を持つ。空気感染と似ているため「国が新型コロナを空気感染と認めた」と話題になった。覚えている人も多いだろう。その影響か、“感染リスクの高い飲食時でも換気さえ注意すれば大丈夫”との認識が広がりつつある。これを心配しているのが公衆衛生に詳しい、岩室紳也医師だ。

「ゴールデンウイーク中の感染対策に関する東京都のポスターには食べ物を介した、接触(媒介物)感染についての記載は『料理は大皿ではなく取り分けて』としか書かれていない。これでは自分や他人、さらには調理人や配膳者の飛沫が料理を介して感染するとイメージできないのではないか、心配になりました」

 新型コロナウイルスが効率よく感染するにはウイルス表面のスパイクタンパク質がヒト細胞の表面のACE2受容体に結合し、TMPRSS2と呼ばれる酵素により切断される必要がある。そのためこの2つが備わった咽頭部や肺など呼吸器系の細胞での感染拡大が注目されてきた。

 しかしいまは、この2つは口腔内の舌、味蕾、歯肉溝にも存在することが明らかになっている。

「飛沫を浴びた料理を介して口腔内から感染することを科学的に証明した論文は知りません。しかし、向かい合って食事をしただけで感染、感染者が配った料理を食べた人の感染が明らかになるなどが報告されています。口の中にたくさんの侵入口がある以上、口腔内感染は理論上あってもおかしくないと考えます」

 岩室医師の懸念は飲食中の感染リスクの高さが広く認識されたのに、今回エアロゾル感染が強調されたことで、飛沫を浴びた料理への警戒感が薄れつつあることだ。

「よくある誤解は食品と料理を混同して安心することです。流行当初の世界保健機関の暫定ガイドラインや厚労省見解でも、野菜や魚を含む食品を介しての感染の可能性は非常に低いとしています。食品上でウイルスは増殖しないからです。しかし、それと飛沫を浴びた料理やウイルスが付着した手で触った料理をすぐに口にするのとは別です」

 オミクロン株以降、味覚障害の報告数が減っている。これは料理を介した感染が低下したからではないか。岩室医師はそう推察している。

「2年前の欧州の調査では中等症以下の新型コロナ感染者の88%に味覚障害が認められました。それが今年の英国保健安全保障庁発行のリポートでは13%まで減少しています。これは、新型コロナウイルスがその姿を変え、新型コロナの感染の仕方が変化した結果であり、エアロゾル感染が増えたのはそれは咽頭下部から口腔内に至る広い範囲だった感染部位が、咽頭上部に狭まったせいではないか、と私は思うのです。とはいえ、飛沫を浴びた料理などへの感染リスクは消えたわけではない。感染後の後遺症の重さを考えれば対策は万全であるべきです。エアロゾル感染だけに気をとられずに、バランスの良い感染経路別の対策を守っていくことが大切だと思います」

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