「老人性うつ」で知っておきたいこと…米国の調査では高齢者の10%が該当

写真はイメージ
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 俳優の渡辺裕之さん(享年66)、お笑いタレントの上島竜兵さん(同61)が相次いで急死した。いずれも自殺だとみられている。「老人性うつ(高齢者うつ病)」が大きく影響しているのではとの報道もあるが、老人性うつとはどういうものなのか?

 今より10年近く前の2013年に著書「高齢者うつ病 定年後に潜む落とし穴」を出版している米山医院の米山公啓院長に聞いた。

「私は東京・多摩地域西部のあきる野市で診療所を開いているのですが、別の病気で通院していた高齢の患者さんが、さまざまなストレスによりうつ病を発症するケースは少なからずあります」

「老人性うつ」とは、正式な病名ではない。65歳以上がかかるうつ病が、そう呼ばれている。

 症状は一般的なうつ病と同様で、「気分が落ち込む」または「興味が湧かない/喜べない」のいずれかがあり、体重減少・増加、食欲減退・増加、睡眠障害、疲労感、気力低下、集中力低下などの症状が見られる。

「高齢者のうつ病では、一般的なうつ病と比べて身体症状がより強く出やすい印象があります。疲労感、倦怠感、動悸、めまい、頭痛、胃痛といった不定愁訴です。病院で検査を受けても画像上は悪いところが見つからない。『年のせい』と見過ごされてしまいがち」

 渡辺さんも上島さんも正式な発表があるわけではないので、当然ながら原因を老人性うつとは言えない。また、上島さんは61歳で“老年性”には入らない。

 しかし、個人差はあるものの60歳を越えたあたりから、加齢に伴う身体機能や認知機能の低下を実感し、喪失感を覚えることが増えてくる。これがストレスとなり、うつ病を招きやすくなる。

■身近な人を亡くしたときは要注意

「さらに、定年や仕事の減少などで、社会的な役割喪失への不安も生じる。年を重ねるほどに、配偶者や親しい友人など、身近な人を亡くす経験も増える」

 うつと生活習慣病との関係も明らかになっている。老人性うつのリスクとして、喫煙、拡張期血圧、肥満、高血圧、糖尿病が知られている。特にうつ病と糖尿病は相互関係にあり、うつ病の人の糖尿病の発症リスクは1.6倍、糖尿病の人ではうつ病発症リスクが1.15倍との報告がある。

「高齢者はどこかひとつバランスを崩すと、ほかの臓器にも影響し、身体的なつらさが増す。それが精神状態に影響を与え、うつ病へと至るケースもあります」

 高齢者は、うつ病の要因をたくさん抱えているとも言える。アメリカの研究では、65歳以上の高齢者の10%には何らかのうつ病性障害が認められるという報告がある。

 では、高齢の親がもし「老人性うつ」だった場合、早くに発見するにはどういうことを知っておくべきか?

「先ほども述べましたが、高齢者のうつでは身体症状(不定愁訴)が先に強く出てくるケースが多いのです。病院で検査を受けたが異常は見つからなかった場合は、うつ病が背景にあることを疑った方がいいでしょう。検査では原因がみつからない不定愁訴は、自律神経失調症と診断されがち。そう言われた場合も、心療内科または精神科、高齢者のうつ病をよく診ている内科などで、診てもらうことをお勧めします」

 身体症状の出たタイミングが、配偶者の死、親しい友人の死、定年退職など「うつ病を発症しやすい状況」と同時期であれば、よりうつ病が疑われる。

「うつであれば、抗うつ薬SSRIの服用で改善が見られます。ただ、効果が見られるのは数週間服用してから。服用しはじめは一時的に不調が強く出るようになるかもしれません。薬の説明もしっかりしてくれる医師のもとで治療を受けてください」

 コロナで人との交流が減った。高齢者なら、なおさらではないか。うつのリスクは高まっていると考えた方がいいかもしれない。

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■厚生労働省のホームページで紹介している主な悩み相談窓口

▽いのちの電話 0570-783-556(午前10時~午後10時)、0120-783-556(午後4時~同9時、毎月10日は午前8時~翌日午前8時)

▽こころの健康相談統一ダイヤル 0570-064-556(対応の曜日・時間は都道府県により異なる)

▽よりそいホットライン 0120-279-338(24時間対応) 岩手、宮城、福島各県からは0120-279-226(24時間対応)

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