日本で一番感染者が多い性感染症「性器クラミジア」を甘く考えてはいけない

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 20代の若い女性を中心に梅毒感染が急増している。国立感染症研究所の感染症週報第19週(5月9~15日)によると、全国で新たに141件報告され、年初からの累計数は3630件となっている。このペースで増え続ければ1万人台に達するともいわれている。しかし、感染が急増している性感染症は梅毒だけではない。日本で一番患者数が多いといわれる「性器クラミジア」の患者数もまた、少しずつ増えている。「性感染症 プライベートゾーンの怖い医学」(角川新書)の著者で、日本性感染症学会の功労会員でもある「プライベートケアクリニック東京」の尾上泰彦院長に聞いた。

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 性器クラミジア発症の原因となる病原体は、クラミジア・トラコマチスという細菌の一種。粘膜の接触、体液交換で感染する。

 感染力が強いことが知られていて、1回の性交で感染する確率は50%。この病気が怖いのは感染しても自覚するのが難しいこと。男性で自覚するのは50%、女性ではさらに少なく20~30%といわれている。

「女性の感染がわかりづらいのは症状が出たとしても軽く、『おりものの増加』『下腹部痛』『排尿痛』『性交痛』などで、治療せずに我慢してしまうケースが少なくないからです。そのため、知らず知らずのうちにパートナー同士でうつしあっている可能性が高いのです」

 当然のことだが、この病気は治療しなければ治らない。

「クラミジアは若い女性の子宮頚部や子宮頚管部の粘膜にある円柱上皮細胞が好きで、この細胞のあるところに好んですみつくといわれています。そのため卵管炎、卵巣炎、骨盤腹膜炎などになりやすい。男性は前立腺炎や精巣上体炎になりやすいことがわかっています。注意したいのはクラミジアは性器だけに感染するわけではないこと。喉や目、肛門などさまざまなところに感染します。しかし、保険診療では1度の診療で1部位の検査しか認められていません。ですから1度病院で検査してもらったからといって、体に感染したクラミジアのすべてを発見して治療したことにならない場合があります」

■女性はとりわけ不妊症に注意

 最近はオーラルセックスが一般的になり、咽頭クラミジアも少なくない。また、AVの影響でいわゆる“顔射”が当たり前になったせいか、目から感染して目、耳、喉の病気になることもあるという。

「女性の場合は、クラミジアに感染すると不妊症に注意しなければなりません。卵管の閉塞や周囲の癒着を発症する場合があり、クラミジアに感染するたびに卵管性の不妊症になる確率が20%ずつ高くなるともいわれています」

 卵管とは子宮と卵巣をつなぐ管のこと。精子と卵子の通り道であり、両者が出合い受精する場所である。そこが狭くなったり、詰まったりすれば、妊娠が難しくなる。

 そんな性器クラミジアが新型コロナ感染症が拡大して以降、少しずつ感染拡大している。

 国立感染症研究所のホームページによると今年4月の報告数は2342件。一方、2019年4月の報告では2123件、18年4月は1850件、17年4月は1858件だったから、性器クラミジアの感染報告数は新型コロナ感染症が流行する前に比べて増えている。

 では、どこで増えているのか? 今年4月のデータによると最も多い都道府県は大阪府(196件)。以下、東京都(178件)、千葉県(164件)、愛知県(163件)、埼玉県(133件)、北海道(131件)と続く。

 やはり性感染症は大都市圏で多い、と思われるかもしれない。しかし、必ずしもそうとは言い切れない。

 じつは性器クラミジアは全症例が報告されているわけではない。全国の指定された医療機関(定点)約1000カ所からの報告数に過ぎず、そのため定点が多い都道府県では自然と報告数が多くなる傾向にある。そこでこれを1定点あたりの報告数でみると、最も多いのは宮城県となる。60件の報告数で、1定点あたり4.00件が報告された。以下、佐賀県(27件、3.86件)、千葉県(164件、3.81件)、鳥取県(26件、3.71件)が目立つ。

 ちなみに男女でみると、今年4月の報告数2342件のうち、男性は1185件、女性は1157件だった。

「尿道や喉に違和感がある、パートナーがクラミジアに感染した、女性の場合はおりものが臭い、多いなどの症状があれば、性感染症の専門医院を受診することを強くおすすめします」

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