歯周病を悪化させる「歯石」は徹底的に取り除いたほうがいい

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 コロナ禍で口腔内についても健康意識が高まり、定期的に歯科医院に通って歯をクリーニング=メンテナンスしてもらっている人も多いだろう。その際、「歯石」を除去するケースがほとんどだが、すべて取り除くべきなのか。歯石除去について、小林歯科医院院長の小林友貴氏に詳しく聞いた。

「歯石」とは、歯の表面に付着したプラーク=歯垢に、唾液中のカルシウムやリン酸が沈着して石灰化したものをいう。石のように硬くなってこびりつき、歯ブラシで取り除くのは難しい。

「歯石は表面がでこぼこしているため、口腔内の細菌がすみついて増殖しやすくなります。そのまま放置していると、周囲の歯茎に炎症を起こして腫れや出血を招き、歯周病の原因になります。さらに進行すると歯を支えている骨が溶けていき、知らないうちに歯周病が悪化していきます。主な歯周病菌は酸素を嫌い、血液中の鉄分を栄養とするため、出血がある歯と歯茎の隙間にできた深い歯周ポケットは絶好の活動の場所となり、さらに骨を溶かします。その結果、歯がグラグラしたり、抜けてしまうのです」

 毎日、完璧に歯磨きをしていれば、歯に歯石が付くことはない。しかし、ほとんどの人はどうしても磨き残しがあり、日常の歯磨きで一定期間、磨き残しがある部位は歯石が沈着するケースが多い。だからこそ、歯石除去を含めた歯のクリーニング=メンテナンスが重要なのだ。

「歯石は徹底的に除去したほうがいいと考えます。歯石除去は歯周病の予防と治療に欠かせない処置だからです。歯石には、①歯に付着していて目視できる白い歯石と、②歯周ポケットの中に付着して隠れている黒い歯石があります。いずれも歯ブラシでは取り除けないので、歯科医院で専用の器具を使って取り除かなければなりません」

■歯茎を切開して取り除くケースも

 歯石除去には主に2つの方法がある。①「SRP」(スケーリング/ルートプレーニング)と呼ばれる方法と、②「フラップ手術」といわれる外科手術だ。

 ①SRPは「スケーラー」と呼ばれる器具を使用して、歯に付着している歯石や、歯の表面のバイオフィルム(微生物の集合体)を除去する。スケーラーには超音波スケーラーや手用スケーラーなどさまざまな種類があり、歯石の付き具合によって使い分けられる。

 歯周病が進行すると、歯周ポケット奥の歯根に黒い歯石が付着するなどして歯周病菌に汚染される。そうした歯周ポケットの奥深くの歯石を特殊な器具で削り取り、汚染された部分を除去して歯根の表面を滑らかにする。

「歯の表面は、歯茎の上に露出した部分はエナメル質、歯茎で隠れている部分はセメント質という組織でできています。歯根部の表面は硬いエナメル質ではなくセメント質なので、SRPで歯石を削り取るときは、セメント質を削りすぎないよう注意する必要があります。歯周ポケットの奥深くに歯石がある場合、器具が届きにくいうえに目視で確認することもできません。ですから、治療者には技術が求められますし、処置にはどうしても限界があります」

 SRPでは歯石除去が難しい場合、歯茎を切開して目視しながら歯石を取り除く②フラップ手術が検討される。一般的な歯のクリーニング=メンテナンスでは、初回は目視による歯周病の評価とレントゲン検査を行い、SRPで歯石の除去を実施する。後日、歯周病の再評価を行い、改善の傾向があれば再びSRPを実施して経過を観察し、改善が見られない場合はフラップ手術を勧めるケースが多いという。

「歯周ポケットの深さが6ミリ以上あって、奥に歯石が付いていれば、歯周病は進行していると考えられます。仮に歯石がなくてもバイオフィルムは付着しています。歯周ポケット奥の歯石はレントゲン検査で発見できないものも多く、そのまま放置していれば歯周病はどんどん悪化します。ですから、目視でしっかり確認できる手術を検討すべきと考えます」

 こうした方法で歯石を除去できたとしても、普段のケアが不十分だと同じことを繰り返す可能性が高い。

「ですから、歯のメンテナンスでは正しいブラッシング指導を重視しています。メンテナンスの本来の目的は、バイオフィルムの除去と患者さんの口腔ケアに対するモチベーションの維持にあります。歯石が付いたからクリーニングに行くという発想ではなく、歯石が付かないように日頃からしっかりケアを実践することが大切です」

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