甲状腺がんは「早期発見・早期治療」が死亡率減少につながらない

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 女性に多い甲状腺がんは、喉仏の下辺りにある甲状腺にできるがんだ。この甲状腺がんの近年のトピックスについて話すのは、甲状腺がんの外科治療を専門とする日本医科大学内分泌外科の杉谷巌教授。

「甲状腺がんに関しては、早期発見・早期手術が死亡者数の減少につながらないということが明らかになったのです。甲状腺がんの早期発見のためにがん検診を受けることはメリットがない。かえって過剰診断、過剰治療になりかねない」

 この問題にいち早く気づいたのが、日本の研究者だ。1990年代から、予後がいい超低リスクの甲状腺がんには手術をせずに、定期的なエコー検査で経過を見るという研究が行われた。

 行ったのは、神戸の隈病院と東京のがん研有明病院の2施設。約3000例の超低リスク甲状腺がんを集めて経過を見ると、9割が進行しなかった。

 また、リンパ節転移は数%あったが、ある程度がんが進行してから手術をしても予後に影響がないことがわかった。

「その結果によって、『甲状腺腫瘍診療ガイドライン2010』で、超低リスク群はすぐに手術をしないという選択肢が示されました。世界で初めてのことです」(杉谷教授=以下同)

 誤解がないように強調すると、甲状腺がんは放置しても問題ないのではなく、「手術せずに経過観察」。それも、超低リスクと診断された場合において、だ。

■重要なのは「種類」で説明がなければセカンドオピニオンを

 ここで私たちが知っておきたいのは、甲状腺がんには乳頭がん、濾胞がん、低分化がん、未分化がん、髄様がん、リンパ腫、その他と複数の種類があるということ。

「全体の90%が乳頭がんで、超低リスクがんを含むのは乳頭がんです。一方、たとえば1~2%の頻度の未分化がんは予後が悪い。1~2%の頻度の髄様がんは30%が遺伝性で、甲状腺内に多発するため甲状腺の全摘が必須です。どの種類かで治療法が異なります」

 甲状腺がんは、首のしこりや声のかすれなどで見つかることもあるが、最近では無症状で、健康診断や人間ドックなど何らかの検査の際に偶然見つかるケースが一般的。がんと突然告知されれば動揺するが、その時、取るべき行動は次の通りだ。

「医師から甲状腺がんの種類の説明がなければ、セカンドオピニオンなどで種類を確認してください。乳頭がんで超低リスク群なら経過観察でいけるかもしれない。しかし、その考えは甲状腺がんの専門医の間でようやく広まってきた段階で、一般の医師には十分に浸透していないかもしれません。種類やリスクの分類も、専門医がいる施設でなければ、行われていないことがあるのです」

 甲状腺がんの種類は細胞診で調べられる。90%が乳頭がんなので、ほとんどの人は乳頭がんと診断されるだろう。そうなれば、次は超低リスク群か、手術やその他の治療が速やかに必要な高リスク群か。遠隔転移の有無、年代、大きさ、他臓器への激しい浸潤の有無などで分類される。

 乳頭がん以外の種類の甲状腺がん(未分化がんや髄様がんなど)であれば、手術、分子標的薬(遺伝子変異によって作られた異常なタンパク質を標的とする薬)、放射性ヨウ素内服療法、TSH抑制療法(甲状腺刺激ホルモン=TSHを薬で抑制する)など、その種類に応じた、エビデンスのある治療が選択される。必要に応じて、遺伝子検査も行われる。

 残念ながら未分化がんは日単位で症状が進行するが、それ以外は高リスクでも進行は月単位より遅い。セカンドオピニオンを受ける時間はある。 

 避けたいのは、「経過観察で対応できたのに全摘された」「適切なタイミングで遺伝子検査が行われなかったために分子標的薬の治療が遅れた」など、方向性の違う治療を受けてしまうことだ。

■主な症状は 甲状腺がんの主な症状は首のしこり。「声かすれ」「のみ込みにくさ」などもあるが、まれだ。

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