20代の会社員の方からのご質問です。昔は朝から晩まで仕事に打ち込み、夜は接待や上司や部下との付き合いに時間を費やして、休日も同僚を出し抜こうと仕事をする人も少なくありませんでした。健康とはほど遠い生活です。
時代といえばそれまでですが、世の中全体がお金を稼ぐことにギラギラした時代だったように思います。それでも平均寿命は延びていきましたから、人間の体とは大したものだと思ったものです。
さて、ご質問の回答ですが、将来も健康的な生活を送りたければ、若い人は一銭でも多くの所得を得る努力をすべきだと考えます。健康と所得の結びつきとは強い相関関係にあるからです。
たとえば、スタンフォード大学の経済学者ラジ・チェティ氏は1999~2014年の米国における所得と平均寿命の関係を米国医師会雑誌に報告しています。この研究では14億件の所得税申告書と死亡率データを基にしています。その結果、所得が多ければ、寿命が長いことを突き止めました。
ノルウェーの研究でも同様の調査結果が出ています。オスロ公衆衛生研究所の研究員が40歳以上の300万人の2005~2015年のデータを解析したところ、最も所得の多い1%は最も低い所得の女性たちに比べて8.4年、男性とは13.8年も長生きだったと報告しています。
日本でも厚生労働省が2020年1月14日に発表した「平成30年国民健康・栄養調査」の結果から、所得格差は健康に影響を及ぼしていることを報告しています。
たとえば食塩摂取量は、世帯所得600万円以上の男性は、200万円未満の男性に比べ少なく野菜摂取量は多い。同じく世帯所得600万円以上の女性は200万円未満の世帯より果物の摂取量が多い。歩数も所得の高い世帯の方が低い世帯よりも多いことを報告しています。
恐ろしいことに2000年以降は所得格差による健康格差は拡大方向にあることが報告されています。へたな健康法にこだわるより、まずは所得を上げるよう努力する。これに勝る確かな健康法はないのかもしれません。
(弘邦医院・林雅之院長)
健康の「素朴な疑問」