感染症別 正しいクスリの使い方

【梅毒】新たな薬によって1回の注射だけで治療が可能になった

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

「梅毒」は梅毒トレポネーマという細菌が感染することで起こる感染症です。性行為により、粘膜や皮膚の小さな傷から感染します。感染すると、性器や肛門、口にしこりができたり、全身に発疹が現れたりしますが、いったん症状が消えるため治ったと間違われることもあり、発見が遅れる危険があります。

 検査や治療が遅れたり、治療せずに放置したりすると、脳や心臓に重大な合併症を起こすケースがあります。無症状のまま進行する場合もあるため、治ったことを確認しないで治療を途中でやめてしまわないようにすることも重要です。

 ほかの性感染症の患者数は横ばいなのに対し、梅毒の患者数は右肩上がりに増加しています。2021年度は7000人を超え、過去最多の患者数を記録しているのです。梅毒は潜伏期間が長い(10~90日)のが特徴で、感染しても症状が出ない人もいます。そのため、気がつきにくく検査を受けないと感染したかどうかは分かりません。気になることがある場合は、検査を受けることをおすすめします。

 梅毒の治療にはアモキシシリンやミノサイクリンといった経口抗菌薬を4週間服用するのが一般的です。しかし、今年1月末に「持続性ペニシリン注射剤」が発売され、1回の注射だけでも治療が可能となりました。

 これら抗菌薬には治療開始時の注意点があります。梅毒では、抗菌薬投与から数時間~24時間以内に発熱、筋肉痛、悪寒、頭痛といった症状が出るケースがあります。

 これらは「Jarisch-Herxheimer反応」と呼ばれていて、抗菌薬によって分解された梅毒トレポネーマに対する免疫反応によるものと考えられています。発熱は24時間以内に解熱しますが、アセトアミノフェンなどの解熱剤が使用される場合もあります。この反応は知らないと医師も患者もかなり不安になるので覚えておきましょう。

 また、梅毒は治癒してからも免疫ができません。そのため、自分だけが治療してもパートナーから再感染したり、その逆もありますからパートナーも一緒に完全に治すことが必要です。

荒川隆之

荒川隆之

長久堂野村病院診療支援部薬剤科科長、薬剤師。1975年、奈良県生まれ。福山大学大学院卒。広島県薬剤師会常務理事、広島県病院薬剤師会理事、日本病院薬剤師会中小病院委員会副委員長などを兼務。日本病院薬剤師会感染制御認定薬剤師、日本化学療法学会抗菌化学療法認定薬剤師といった感染症対策に関する専門資格を取得。

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