6月24日金曜日、アメリカ最高裁で人工妊娠中絶は違憲という判断が下され、女性の権利は約50年前に後退しました。あれから1週間、保守が強い州では中絶が次々に禁止となり、全米で抗議行動が続いています。
アメリカでは、中絶が必要な人は受けられるべきという意見が、全体の6割を占めています。にもかかわらず今回違憲とされたのは、最高裁が極端に保守化したからです。これに関しては、以前のコラムで詳しく述べました(https://hc.nikkan-gendai.com/articles/277587 https://hc.nikkan-gendai.com/articles/277617)。
今回超保守の最高裁が下したのは、女性が中絶を受ける権利は、憲法では守られないという判断です。
保守的なキリスト教徒には、中絶は胎児に対する殺人という考え方があります。今回の判断では、胎児の人権が、生む女性の権利に優先することが、認められた形になります。
中絶ができない、すなわち、それは自分の体なのに思うようにできないことを意味します。欲しくない子供を産まなければならない。州によってはレイプ犯の子供であっても。
お金がなくて育てられないという事情があろうと、たった1度の避妊の失敗で夢見ていた人生が台無しになろうと、それによって女性がどんなトラウマを受けようと関係ない。これは相手の男性にとっても同じです。ようやく心臓の鼓動が探知されたばかりの、妊娠1カ月半の胎児の人権が優先です。
どう考えるかは個人の自由です。しかし中絶を違法にし女性を縛るのは人権の剥奪だと、抗議するアメリカ人は連日叫んでいます。
ところで、「違法」ということは罰則もあります。州によっては、中絶を行った医師やそれを助けたスタッフ、患者を運んだドライバーに対し、訴えればお金がもらえる仕組みがあります。いつ誰に訴えられるかわからない。恐れが支配する社会になりかねないと懸念されています。
ちゃんと避妊しないから悪いんだと思われる方もいらっしゃると思いますが、その通りです。貧困層は医療もまともに受けられない国です。残念ながら避妊へのアクセスも限られています。
その避妊が、最高裁の次のターゲットと言われています。避妊が違法になるなら次は同性婚だろうと考えられています。
ラジカルと言われるほど超保守化した最高裁によって、アメリカはどこに向かうのか。権力が人を縛ることで支配を強める、暗黒時代に近づいたと言う人も少なくありません。
ニューヨークからお届けします。