60歳からの健康術

性感染症編(2)股間のかゆみの意外な原因 糖尿が進行して…

写真はイメージ
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 汗ばむ季節になると股間のかゆみに悩む人が増える。その中には意外な病気が隠れている場合がある。皮膚が衰え、体の無理が病気となって表れがちな60代以降は股間のかゆみを甘く見ないことだ。「性感染症 プライベートゾーンの怖い医学」(角川新書)の著者で日本性感染症学会の功労会員でもある「プライベートケアクリニック東京」院長の尾上泰彦医師に聞いた。

 半年ほど前から股間のかゆみが出て、かきむしるほどにかゆみが増してしまった50代後半の男性。尾上医師が診察すると、股間はゴワゴワし、皮膚は茶色と赤色が混ざりあったような色をしていた。聞くとこの男性、妻とは10年以上もセックスレスで浮気も風俗店にも行ったことがない、とのこと。

「一般的に性感染症でかゆみが出るのは淋病や性器ヘルペス、クラミジア感染症、毛ジラミなどで、女性特有のものとしては腟カンジダ症、トリコモナス腟炎があります。この男性は性交渉がないとのことで性感染症ではないことが濃厚でした」

 男性は性交渉以外でも発症するインキンタムシを疑っていたが、そうではなかった。

「インキンタムシは水虫の原因として有名な白癬菌による皮膚疾患を言います。かゆいのは白癬菌が角質層の下の表皮細胞に接触すると炎症が起きるからです。しかし、この男性の場合は顕微鏡で調べても白癬菌はいませんでした。陰嚢湿疹も検討しました。湿疹は皮膚に炎症を起こす病気の総称で、原因は汗、植物、化学物質など多岐にわたります。このため原因を特定するのは難しいのですが、真夏に発症するものの中には汗による接触皮膚炎や脂漏性湿疹が考えられます。しかし、これでもありませんでした」

 その後、この男性は会社の健康診断で血糖値が高いので治療するように指示されていたのに放っておいたことが判明した。

「恐らく、かゆいのは皮膚掻痒症だったからで、糖尿病が進行したことで、かゆみが増したと考えられます」

 皮膚掻痒症とは、発疹などの目立った症状がないのに、かゆみが出る病気のこと。「限局性」と「汎発性」があり、前者は主に中年以降の女性の外陰部、男性のおしりなどに出やすい。後者は内臓の病気が原因で全身にかゆみが出やすい。代表的な内臓の病気は糖尿病、肝硬変、慢性腎不全など。バセドー病や鉄欠乏性貧血などでも発症する。

「糖尿病で陰部がかゆくなるのは、血糖値が上がって皮脂が減少して、皮膚が乾燥するからです。高齢者はただでさえ皮膚が乾燥しやすいので注意が必要です。皮膚が乾燥して水分を消失すると、外側からの刺激を受けやすくなり、かゆみを感じる神経末端が表皮へ入り込むことで、かゆみが増強すると考えられます」

 この男性はその後、糖尿病専門医に診てもらうことで、かゆみが軽減したという。股間のかゆみを恥ずかしいからと自己判断して勝手に薬を使うと治らないばかりか悪化する場合がある。気をつけることだ。

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