Dr.中川 がんサバイバーの知恵

杉田あきひろさんは躊躇も…喉頭がんは治療の代償が病期で大きく変わる

「奇跡を起こします!!」
「奇跡を起こします!!」/(C)日刊ゲンダイ

 喉が商売道具のプロですから、ひるむのは無理もないかもしれません。NHK Eテレ「おかあさんといっしょ」の元うたのお兄さんとして知られるボーカリストの杉田あきひろさんが、「(喉頭がんの放射線治療を終えても)今のレヴェルで歌を歌える保証は無い」と医師に言われ、治療にためらいが生じたことをツイッターに吐露したことが話題です。

 それでも結局、放射線を選択。放射線と手術とで1日迷ったため、「(当初の予定より治療スタートの)日程も一週間遅れたんです」と事情を説明。「また必ず歌えると信じて、強い気持ちで闘い抜きます」と前向きに語っています。

 喉頭は、一般にのどぼとけのことで、気道と食道が分離するところにあります。誤嚥(ごえん)を防いで気道の確保が役目の一つ。もう一つは発声で、その中に声帯があります。声帯を声門と呼び、それより上を声門上、それより下を声門下。部位別にみると、声門がんと声門上がんで9割超、声門下がんは2%程度です。

 多くを占める2つは声のかすれやのみ込みにくさ、痛みなどの症状が現れやすく、比較的早期に見つかりやすい。声門下がんは進行するまで症状がないことが多く、全体としては7割がステージ1か2の早期で見つかります。

 しかし、杉田さんはステージ3。この病期は、ほかの臓器への転移はないものの、リンパ節転移への可能性があります。治療を延期される前の説明で「相当痛い」との説明を受けていることからリンパ節転移があるのかもしれません。

 リンパ節転移がなければ、放射線の照射は喉頭のみで抗がん剤も使用しません。リンパ節転移があると、リンパ節も含めて照射するため範囲が広くなる上、抗がん剤も使用します。抗がん剤も重なる分、副作用も強いのが一般的です。

 粘膜や皮膚に放射線が当たると、炎症が発生。特に粘膜の炎症が進むと、表面がただれ、痛みが現れます。放射線が当たっていない部分には現れませんが、抗がん剤を同時に使うケースは、痛みがより強くなりやすいのです。

 のどの痛みの強さによっては食事ができなくなることもあり、一時的な胃ろうで栄養をまかなうことも珍しくありません。がんは違いますが、喉頭と近い部位の食道がんで化学放射線治療を受けている女優の秋野暢子さんも一時的な胃ろうを増設。痛みについては「喉に剣山が刺さっているよう」とつらさを表現しています。

 この粘膜炎は、治療開始から3週間ほどで生じ、治療が終わると2~3週間でよくなることがほとんど。厄介な症状も一時的です。

 一方、抗がん剤が不要な早期は放射線のみで副作用はもっと軽い。手術も早期なら、声帯を一部残す部分切除で、声の質は変わりますが、声を残すことができます。しかし、転移があると全摘で、声を失うことに。喉頭がんは、病期によって治療の副作用だけでなく、手術の代償が大きく変わります。それだけに早期発見がとても重要で、胃カメラのときに咽頭と喉頭のチェックをお願いすることをお勧めします。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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