これまで取り上げてきたように、食中毒の原因になるウイルスや細菌はたくさんあります。今回は最近話題になった「謎の食中毒」についてお話しします。
2000年以降、西日本を中心に食後数時間で嘔吐や下痢を発症する食中毒事例が報告され始めます。これらは今までに知られている食中毒の原因物質と一致しないことから、「謎の食中毒」といわれていたのですが、多くの事例で提供メニューに生食のヒラメが含まれていたことが判明し、国による調査が行われました。
その結果、ヒラメに寄生する「クドア・セプテンプンクタータ」(以下クドア)が、ヒトに食中毒症状を引き起こすことが判明したのです。
クドアは、ミクソゾア門に属する粘液胞子虫類の一種です。広くいえばクラゲやイソギンチャクなどの刺胞動物の仲間で、花びら状の特徴的な形をした寄生虫です。クドアの仲間はヒラメ、カレイ、サバなどに寄生し、それらの筋肉をドロドロに溶かしてしまう「ジェリーミート」や、筋肉中にシストと呼ばれる胞子の袋を形成することで商品にならなくなる「奄美クドア症」と呼ばれる現象が水産業界では知られていました。しかし人体に影響はないため、これまでクドアをはじめとする粘液胞子虫があまり一般に知られることはなかったのです。
クドアによる食中毒はヒラメの刺し身に関連するものが多く、食後数時間程度で一過性の嘔吐や下痢が起こり、軽症で終わる症状が特徴です。発生は8月から増加して9~10月に多く、冬季には減少するという報告があります。
最近は韓国産のヒラメによる食中毒報告が相次いでいることから、厚生労働省は19年に韓国産ヒラメの輸入検査強化を発表しています。
一方、国産の養殖ヒラメはクドアが寄生していない稚魚の導入や出荷前の検査などが行われているため、国産養殖ヒラメによるクドア食中毒は極めて少なくなっているそうです。
ヒラメをマイナス20度で4時間以上の冷凍、または75度で5分以上の加熱により、食中毒を防ぐことが可能です。しかし、ヒラメは生食が好まれることから現在、冷凍以外の食中毒予防法について研究が進められているといいます。