なぜ「おひとりさま死」は在宅を選択肢に入れるべきなのか(1)

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 あなたは一人暮らしの死(=おひとりさま死)について考えたことがあるだろうか? 2020年の国勢調査によると、一人暮らしが世帯全体(5583万世帯)の38%を占め、65歳以上の単身高齢者は5年前に比べて13.3%増の671万6806人に増えている。中年世代の未婚率も上昇しており、いま現在、一人暮らしの死を意識せざるを得ない人は多い。家族がいる人もこれは他人事ではない。一般世帯の平均人員が2.21人であることから、いずれ「おひとりさま死」を考えざるを得なくなる。おひとりさまの自宅での看取りはどうなのか? 毎年200人を自宅で看取る「しろひげ在宅診療所」(東京・江戸川区)の山中光茂院長に聞いた。

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 単身高齢者の多くは健康であっても孤独だ。

 令和4年版高齢社会白書によると、65歳以上で親しくしている友人・仲間がいるかを尋ねたところ、「持っていないと感じる」「ほとんど持っていないと感じる」が65~74歳の男性23.4%、女性15%だった。これが75歳以上では、それぞれ22.4%、18.7%となる。数日間、誰とも会話をしない高齢者も少なくない。

 そんな一人暮らしの高齢者は自宅でなく大勢の人が行き来する病院で亡くなった方が孤独でないように思われるかもしれない。しかし、必ずしもそうではないという。

「私たちのクリニックでは、年間200人以上を自宅でお看取りしており、約半数は一人暮らしの方々です。その方々は決して孤独な死にはなりません。なぜなら、在宅診療では『おひとりさま』のお看取りをチームみんなで支えて見守ってきて、ともに同じ時を過ごしたという思いが強いため、最期の瞬間が一人であったとしても、決して『孤独な死』という感覚ではありません。また、在宅の看取りで重要な点は、そこが患者の『ホーム』であることです」

 患者にとって、病院はどれだけ周りが親切でも「アウェー」には変わりがない。どこか遠慮が出てしまう。自宅ならば、わがままや医療・介護への不平不満も言いやすい。

「病院では認められない飲酒や喫煙、食事も自宅なら医師や看護師との相談次第で認めてもらえる。慣れた自宅での生活は、最期の時間まで自分らしく過ごしやすいし、介入する介護職とも『友人』『家族』のような距離感の近い感覚で接することができるのです」

 ところが身の回りの世話をする身寄りがない、近くに親戚縁者もいない、そんなおひとりさまは自宅で最期を迎えられない……そう思い込んでいる人がいるが誤解だ。

「がんの末期、難病などでも自宅で過ごせないこともないのです。実際、私たちは他の医療関係者から『この病状では入院するか施設で過ごした方がいい』と安易に言われた患者さんを引き受けることも多い。むろん、すべての患者が自宅で過ごすのが幸せとは思わないし、病院や施設で最期を迎えるという選択肢を否定するものでもありません。ただ、『最期は自宅で過ごしたい』という本人の思いや、『近くにいられないが、最後は望むように自宅で過ごさせてあげたい』という家族の思いをかなえられる在宅診療所は数は少なくとも存在する。そのことは知っておくべきです」

■重要なのは「医療」と「介護」の質

 ちなみに一人暮らしの人が自宅死を望まないのではないか、という人もいるがこれも間違いだ。65歳以上の単身世帯の持ち家率は66.2%で、自宅に愛着のある人も多い。

「おひとりさまが在宅で最後まで幸せに過ごすうえで重要なのは、医療と介護の質です。まず、医療の質で言えば、病院で入院加療することよりも在宅診療でしっかり診てもらうことは延命や緩和という視点から有利であると言えます。まともな在宅診療ならば、内科、外科、整形外科、精神科、緩和ケアのどの分野に対しても責任を持てる前提で開院しており、『専門外だから病院に行ってください』ということにはなりません」

 もちろん、がんの終末期における緩和ケア病棟なら、全身状態を総合的に管理しながらサポートをする。しかし、それ以外だと大きな病院であればあるほど、それぞれの専門に分化された病棟に入院することになる。

「病気が重度であればあるほど、心疾患、呼吸器疾患、精神疾患などさまざまな症状が併発するなかで、状態に応じた柔軟な対応が求められます。専門に分化した病院だと、専門外の事態が起きると医師ならば本来誰でもサポートできるような症状でも、専門の医師に相談することになります。多様な視点から多様なドクターが診るといえば聞こえはいいが、実際には重症度が高い疾患の入院加療では、『縦割り医療』の弊害が出ていることが多いのです」(つづく)

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