「抗原検査でコロナ陰性」を信じてはいけない 発熱外来医師が指摘

PCR検査は所定の場所に行かなければならない
PCR検査は所定の場所に行かなければならない(C)日刊ゲンダイ

 抗原検査キットで検査したら陰性。その後、PCR検査を受けたらコロナ陽性だった。こんな話を周辺からよく聞く。抗原検査キットで陰性でも安心できない?

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 PCR検査は所定の場所に出かけなければならず、結果が出るまで数時間かかる。検査時間によっては、結果判定が翌日以降になることも。一方、抗原検査キットは薬局で売っているので、キットさえ手に入れば自分で検査でき、結果が15~30分でわかる。「もしかして」と思った時に重宝している人も多いだろう。

「抗原検査には偽陰性、偽陽性の問題があります。医者でも、臨床的な判断能力で補い難い場合が多すぎる」

 こう指摘するのは、「たなか循環器内科クリニック」(静岡県袋井市)の田中総一郎院長。 

 現在は第7波による発熱外来の繁忙、PCR検査希望者の増加で抗原検査キットも用いているが、「抗原検査陰性=コロナ陰性」とはせず、「抗原検査陽性なら確定診断。陰性なら偽陰性を見逃さないためにPCR検査」としている。感染拡大の波が落ち着けば、「PCR検査のみ」に戻す予定だという。

「PCR検査はウイルスの塩基配列の一部を正確に認識して増幅する検査で、人為的ミスがない限り、偽陰性の発生は0%です。さらに、感度(陽性をどのくらい正しく判定できるかの指標)も高い。それに対し抗原検査はタンパク同士の抗原抗体反応を利用しており、一定の確率で偽陰性、偽陽性が出ます」

 田中院長は、2021年1月から、発熱外来で提出されたPCR検体を患者さんの同意のもと研究に使用している。21年6月から22年2月までの間で陽性となった314例のCt値(検体に要した増幅サイクル数)を、Ct値ごとに並べると、PCRではCt値40でも陽性を判定できていた。

抗原検査キット
抗原検査キット(C)日刊ゲンダイ
発症してすぐは偽陰性が多い

 では、抗原検査キットでは、どれくらいのCt値まで陽性と判定できるのか? 参考になるのが、21年10月に東大医科学研究所が発表したデルタ株に対する抗原検査キットの感度のデータだ。

 Ct値は数値が大きいほど検体にウイルス量が少ない。東大医科学研究所のデータによると、日本で医療用として承認されている抗原検査キットで、確実に陽性判定となるのはCt値21以下。グレーゾーンを含めるとCt値27まで。抗原検査の感度はPCR検査と比べて非常に低いことがわかる。

■疑わしい場合はPCR検査を

「当院のPCR検査陽性314例を、もし抗原検査キットで調べていたら、陽性となるのはわずか4.7%。グレーゾーンを含めても36.9%。抗原検査キットだけの検査では、6割以上の陽性者を見逃していたことになります。7月から抗原検査とPCR検査を併用するようになり、実際の数値では抗原検査でそこまで見逃すことはありませんが、それでも、抗原検査陰性、しかし、PCR検査では陽性というケースは珍しくありません」

 抗原検査の結果が信用できないのは、特に発症すぐ。感度がより低く、偽陰性となりやすい。

「『朝喉が痛かったので抗原検査キットで調べて陰性。そのまま出社したら昼くらいから発熱して、PCR検査を受けたら陽性だった』というケースをよく聞きます。無症状の人が、週2~3回、確認のために抗原検査キットを使うならいいですが、症状があったり、濃厚接触者となった場合に、抗原検査キットだけに頼っていては、感染拡大につながります」

 抗原検査キットで陰性であっても、必ずPCR検査での確認を。

▽抗原検査キット 抗原検査キットには、国が臨床的に有効と認めた「体外診断用医薬品」と、国の承認が得られていない「研究用」がある。研究用はネットで出回っていて手に入りやすいが、体外診断用医薬品より精度は落ちると考えられる。厚労省は、体外診断用医薬品を今後ネットで販売すると発表。

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