60歳からの健康術

性感染症編(8)梅毒だと入所できる老人ホームが限られる可能性も

写真はイメージ
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 梅毒の感染拡大が止まらない。国立感染症研究所が8月26日に発表した統計データによると、同8~14日で新たに101人の感染者が見つかり、今年の累計は7241人となった。このままのペースでいけば1万人を超えるのは確実の情勢だ。夜も元気な60歳以上の人は注意が必要だ。「性感染症 プライベートゾーンの怖い医学」(角川新書)の著者で日本性感染症学会の功労会員でもある「プライベートケアクリニック東京」の尾上泰彦院長に話を聞いた。

「かつては不治の病のイメージのあった梅毒ですが、いまは良い薬があり、内服薬、あるいは1回の筋肉注射(ステルイズ)で治療すれば完治します。しかし、梅毒は症状が出ても時間が経つと消失してしまうため、人によっては気が付かないことも多い。仮に自覚したとしても60歳以上だと恥ずかしさが先に立って、なかなか病院に行きたがりません。しかし、未治療のままにしておくと病状が進行するだけでなく思わぬ不利益を被ることになります」

 たとえば介護施設や老人ホームなどの入居が難しくなる場合がある。

「病原体への抵抗力が弱った高齢者が集団で生活する老人ホームにとって、感染症は恐ろしい存在です。しかも、それがインフルエンザのような流行性のものでなく、入居希望者の体内に長く潜んでいるものであれば、すべての入居者の安全を担保するために受け入れや対応が慎重にならざるを得ないのは当然です」

 老人ホームでは一般的に入居契約前に血液検査やレントゲンの結果が記載された「健康診断書」や「診療情報提供書」が求められる。梅毒を含めた性感染症の有無も問われると考えた方がいい。

「梅毒の病原体である梅毒トレポネーマは極めて脆弱な微生物で単体では1~2時間以上は生存できないとされています。一度感染して薬で治療すれば発症するリスクは抑えられますが、体の中に抗体が残ります」

 つまり、梅毒に感染したことのある人は治療済みでも一生涯、過去歴が残るということだ。

「梅毒検査(抗体検査)で高齢者が陽性になった場合、問題は感染力がどの程度あるか、です。治療済みならいいのですが、そうでない人の場合はそれを測ることは難しい。ただ、梅毒の感染は主に性交渉で起こるため、日常生活を送るうえでの感染力はかなり低いと考えられます。しかし、施設によっては認知症高齢者同士が性交渉を行ったとの報告もあり、梅毒のある高齢者の入所を避ける施設もあります」

 年を取っても元気なのはいいことだが、夜の元気には注意したいものだ。

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