糖尿病の中高年はフレイルに気をつけろ “自己流”が災いを招く

無理せず継続できる範囲で(写真はイメージ)/(C)PIXTA
無理せず継続できる範囲で(写真はイメージ)/(C)PIXTA

 血糖値が高いことは健康に良くないとわかっていたが、仕事を言い訳に治療せずに放ってきた。そこで定年を機に一念発起、自己流の食事制限や運動を始めたがかえって体調を崩してしまった。そんな人も多いのではないか? 「北品川藤クリニック」(東京・品川)の石原藤樹院長に話を聞いた。

 商社に勤めていた田中一さん(66=仮名)は定年後すぐに体づくりを始めた。学生時代70キロだった体重が100キロ近くまで増え、ここ数年健康診断でヘモグロビンA1cが8%台寸前の値が続いていたからだ。田中さんは周囲には黙っていたが食後に急激に眠気に襲われていた。医師からも「せっかく毎年健康診断を受けているのだから、節制して糖尿病の治療をしてください。でないと意味がありませんよ」と言われていた。

 田中さんがまず取り組んだのはやせるための糖質制限。何事も徹底する性質の田中さんはご飯やパン、麺類は抜いて肉類中心の食事でお腹を満たすよう努めた。運動は近所の公園での散歩で、1日1万歩を目指した。最初のうち体重は田中さんが思うようには落ちなかったが、しばらく続けるうちに徐々に落ちていった。喜んだ田中さんだったが、やがて体の異変に気がついた。膝に痛みが走るうえ、立ったり、座ったりすることがスムーズにできなくなった。立ち上がるときはテーブルや椅子につかまることが必要になり、椅子にはどすんと座ることが当たり前になった。

 田中さんは膝回りの筋肉が衰えたせいだと思い、ネットの動画などを見てスクワットなどの筋力トレーニングを始めたが、かえって症状は悪くなった。

「田中さんと同じような患者さんはウチにもときどきおられますが、明らかにやり過ぎです。そもそも田中さんは自身が認めたくないだけで糖尿病がかなり進行していたはず。加齢により筋肉量が減っているうえ糖尿病による低栄養があり、それに自己流の糖質制限と運動が加わった。田中さんは脂肪を燃焼させてやせようと思ったのでしょうが、その前に筋肉が急激にやせたのでしょう」

■糖尿病の人はフレイルとサルコペニアになりやすい

 糖尿病が併発する病気というと「糖尿病網膜症」「糖尿病腎症」「糖尿病神経障害」などが有名だが、近年注目されているのはフレイルとサルコペニアだ。フレイルとは体が「虚弱」な状態になることFrailty(フレイルティー)に対応する日本語で「老衰」「衰弱」「脆弱」のこと。加齢に伴って体も心も老い衰えた状態を意味する。

 サルコペニアは筋肉量や筋力、身体機能が低下することを言い、フレイルの原因となることが知られている。

 糖尿病になると、フレイルが1.48倍、サルコペニアが1.25倍なりやすいといわれている。

「田中さんがサルコペニアであるかはわかりません。ただ、サルコペニアになると血糖値が悪くなるといわれています。つまり糖尿病でサルコペニアになり、それが血糖値を悪くし、さらにサルコペニアを進行させる。糖尿病の人がサルコペニアになるとそんな悪循環に陥ることが懸念されているのです」

 田中さんは膝の痛みを周囲の筋肉が落ちたせいと考えて筋トレを始めたが、これも問題だという。

「高齢者は骨がもろくなるし、筋肉に炎症がおきたりすることも考えられるから運動が合わない人もいます。いまは65歳以上でも仕事をする人がいて、自分が若いつもりでいる人がいますが、体は確実に衰えていきます。若いころと同じ感覚で、少し頑張ればやせられる、筋肉がつく、体は元に戻ると思うのは間違いなのです」

 そもそも、血糖コントロールをするのは糖尿病による合併症を防ぐため。高齢者は若い人と同じようになにがなんでも正常値を目指すべきではないという。

「かえって良くないケースがあるからです。糖質を取り過ぎていれば少し抑えることは必要ですが、高タンパク質な食事を続ければただでさえ糖尿病で負担がかかっている腎臓をいじめることになりかねません。運動もその人の状態に応じたものであるべきです」

 そもそも体が衰えていく高齢者はいくら頑張っても正常値に戻すのは難しい。まして一気に正常値にしようとすると体に負担がかかるのは当然だ。

「大事なのは無理せず継続した努力で達成できる目標を決めること。それにはまずは糖尿病専門医のもとを訪ねて、きちんとした診断を受けるべきです。そのうえで食事や運動のやり方を指導してもらうことです」

 健康になりたければ、まずは人の話に素直に耳を傾ける。それが大切だ。

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