感染症別 正しいクスリの使い方

【疥癬】ダニが皮膚にトンネルを掘り増殖…かゆみで不眠に陥る人も

写真はイメージ
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 広島県・宮島の弥山という山に「疥癬岩」(かいせんいわ)という大きな岩があります。不心得な人がこの岩のそばを通ると皮膚病の疥癬になり、疥癬に悩む信心深い人がこの岩に触ると病が岩に移り治る──と言い伝えられています。それくらい昔から知られていた感染症といえます。

 疥癬とは、ヒゼンダニが皮膚の最外層である角質層に寄生することによって生じる皮膚感染症です。通常疥癬と角化型疥癬に分けられ、ヒトからヒトへ感染し、介護を必要とする家族内での感染や老人ホームでの感染がよく知られています。

 ヒゼンダニは皮膚の柔らかいところに「疥癬トンネル」という穴を線状に掘って、そこに潜んで卵を産みます。

 疥癬トンネルは手首、手のひら、指の間、指の側面、アキレス腱などに見られます。ヒゼンダニの糞や脱皮した殻に対するアレルギー反応で生じる激しいかゆみが生じます。また、胸、お腹、腕、太ももなどに赤い発疹が現れたり、男性は外陰部に結節と呼ばれる数ミリ大のしこりができるケースもあります。かゆみは特に夜になると強くなり、不眠になる場合もあります。

 治療にはヒゼンダニを殺す作用のある飲み薬や塗り薬が用いられます。飲み薬で使われるのは「イベルメクチン」という内服薬です。一時期、新型コロナウイルスにも効果があるかもしれないと話題になりました。治療は1回の服用で終了する場合もありますが、1週間後にもう1回服用が必要となるケースもあります。

 塗り薬では「フェノトリン」という薬が多く用いられています。以前はヒゼンダニに有効として硫黄が含まれる軟膏や入浴剤なども多く使われていましたが、有効性の高さや副作用の少なさなどより、現在はフェノトリンが主流です。

 このほか、激しいかゆみに対してかゆみ止めの軟膏を使用することもあるのですが、ステロイドが配合されている軟膏は感染症状を徐々に悪化させる可能性があるため、使ってはいけません。また、一度治療が完了しても免疫ができるわけではないので、自身がうつしてしまった相手から再度うつされてしまうといった「ピンポン感染」も起こり得るので注意が必要です。早期発見と早期治療が重要なので、疑わしい症状があればすぐに医療機関を受診しましょう。

荒川隆之

荒川隆之

長久堂野村病院診療支援部薬剤科科長、薬剤師。1975年、奈良県生まれ。福山大学大学院卒。広島県薬剤師会常務理事、広島県病院薬剤師会理事、日本病院薬剤師会中小病院委員会副委員長などを兼務。日本病院薬剤師会感染制御認定薬剤師、日本化学療法学会抗菌化学療法認定薬剤師といった感染症対策に関する専門資格を取得。

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