健康の「素朴な疑問」

食事の西洋化は米軍の食料援助から始まった 戦前は糖尿病が少なかった

ハンバーグやコロッケは今では晩ごはんの定番
ハンバーグやコロッケは今では晩ごはんの定番

【Q】糖尿病や高血圧、高脂血症など、いくつかの病気は食事の西洋化によって広がった、と聞いたことがあります。しかし、明治以降、西洋料理が日本に根付いたといわれるわりに、戦前の日本は糖尿病などは少なかったように思います。なぜですか?

【A】確かに、西洋料理が日本に紹介されたのは明治期以降ですが、庶民が本格的に西洋料理に親しむようになったのは第2次世界大戦後です。

 きっかけとなったのは米軍の援助による学校給食です。終戦時点で中止されていた学校給食は、昭和22年には部分的に再開され、パンとミルクによる学校給食に変わりました。当時はひどい食糧難で連合国救済復興機関の勧告により米国の援助が始まったからです。

 その後の米国による食料援助は、米国国内でだぶついていた小麦の備蓄を減らして小麦価格を安定させること、日本にパン食を定着させて、将来、米国から小麦を大量に輸入させること、などが目的といわれました。

 実際、昭和39年に米国の上院議員が「学校給食で米国のパンやミルクが好きになった子供たちが成長して、日本は米国農産物の最大の顧客になった」とコメントしたのは有名なお話です。

 読者の中には、昭和30年代にキッチンカーと呼ばれる移動販売車が全国を走り回っていたことを覚えている人もいるかと思います。米国産の小麦や大豆を使う料理を実演して、日本の食卓に西洋料理を浸透させる役割を果たしました。また、当時はまだ珍しかったテレビ放送でさまざまな料理番組が放映され、ハンバーグやクリームシチュー、コロッケやグラタンといった小麦粉、肉、牛乳、卵を多く使われる料理を紹介していました。

 むろん、キッチンカー、テレビの料理番組、婦人雑誌の料理コーナーすべてが米国産の農産物を日本人に購入させるための仕掛けというわけではないでしょうが、日本人の食生活を大きく変化させるきっかけになったのは間違いありません。

 ただし、西洋料理を取り入れたことで日本人の栄養状態は良くなり、脳出血や感染症などの病気が減るなど西洋料理が日本人にもたらした利点も大きかったのです。

 ちなみに日本人の1歳までに亡くなる子供の数は昭和22年の1000人当たり76.7人から平成29年には1.9人まで激減しています。住環境や公衆衛生が格段に良くなったこともありますが、日本人の栄養摂取が良くなったこともその一因と考えられています。

(弘邦医院・林雅之院長)

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