若い女性が性感染症クリニックに押しかけるワケ 東京の夜の繁華街に異変が

写真はイメージ(C)PIXTA
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 東京の風俗店で働く女性や客の間で性感染症クリニックでの診察希望者が急増しているという。

 きっかけは「1000人以上がエイズ発症の危機」とうたった週刊誌の記事だった。

 都内の風俗店に勤める20代の風俗嬢が日本の大学に留学中の外国籍の男性から故意にエイズをうつされたと「衝撃の告白」。同店で他の2人の風俗嬢もエイズ検査で、陽性が確認されたという。

「私もその話を聞きました。うちの店は定期的に性感染症の検査をしているし、過激なサービスをしていないので安心していますが、用心のため別のエリアの系列店に異動したり、この仕事をやめて地方に帰った女の子もいます」(都内の別の風俗店に勤務する女性)

 新型コロナ禍で巣ごもり生活が続くいまの日本では性感染症が大流行している。とくに梅毒の感染は急増しており、東京都感染症情報センターが「9月4日までの全国の梅毒患者数が8155人(速報値)になり、2年連続で過去最多を更新した」と発表したばかり。梅毒感染の危機感にHIVの恐怖が追い打ちをかけた形で、心当たりのある男女が診療を求めて押しかけているのだ。厚労省のHIV研究に尽力する性感染症の第一人者で、東京・新宿の性感染症専門医療機関「プライベートケアクリニック東京」の尾上泰彦院長が言う。

「8月末ごろから、目に見えて女性の患者さんが増えています。多くは性的サービスを提供するお店の従業員。梅毒を含めた一般的な性感染症の検査に加えて、HIV検査を希望しています。男性もHIV検査を受ける人が増えている印象です」

 厚労省(エイズ動向委員会)の2022年8月発表によると、21年の国内の新規HIV感染者は742人、新規エイズ患者報告者数は315人で計1057人(過去20年間で18番目の報告者数)。

 しかし、これは氷山の一角。HIV感染症は、「感染症法」において5類感染症(全数把握)と規定されている。診断した医師は7日以内に最寄りの保健所長を通じて都道府県知事に届け出を行う必要がある。だが、確定診断を恐れて受診しない患者もいて、潜在的な感染者はもっと多いとみられている。

「最近は性的サービスを提供するお店は競争が激しく、差別化を図るためにコンドームなしでサービスをするお店が少なくありません。それが梅毒やHIVなどの性感染症の拡大の背景になっている可能性があります」(前出の尾上医師)

 しかし、週刊誌の報道通りならHIV感染者が増えて、もっと大騒ぎになっているのではないか?

「HIVの陽性検査の判定結果は、2カ月後になります。まだ数字が出ていないのかもしれません」(保健所関係者)

■抗HIV薬の改善も一因か

 気になるのは、直近のHIV検査で「シロ」と判定されても、性的接触を続けていれば、いずれ「クロ」になる可能性が高いこと。

「女性が性感染症クリニックに押しかけているのはその対策のためです。近年、HIVに関する医薬品治療が急速に改善しており、HIV感染者と性的接触を行ってもHIVに感染するリスクを低減する予防法があるのです」(前出の尾上医師)

 ひとつは、「PEP」(ペップ=暴露後予防内服)。HIVに感染したかもしれない行為の後、72時間以内に内服を開始し、1日に1回か2回(薬の組み合わせによる)の内服を28日間続ける。WHO(世界保健機関)の調査報告では、HIV感染者の80%以上に症状の低下が見られたという。

 ただしペップは、性交の相手がHIVに感染していないと分かっている場合、または自身がすでにHIV陽性であれば、服用の対象にはならない。

 抗HIV薬にはこの他に、性交渉する前から薬を服用しHIV感染のリスクを減らす「PrEP」(プレップ=暴露前予防内服)がある。欧米で人気の予防法だ。

 プレップは9割の確率で効果が期待され、2種類のHIV治療薬を合剤にした「ツルバダ」などがある。ジェネリック薬としてもネット販売されているが、腎機能障害を起こすリスクがあり、使用管理が必要。もし、個人的にPrEPなどを服用するときは性感染症専門医に相談し、定期検査が必要だ。

 なお、梅毒は当初は症状が軽いために気づかず放置されることが多い。しかし、将来的に脳や心臓に重大な合併症を引き起こすことがある恐ろしい病気だ。疑わしい自覚症状があれば、直ちに専門医を訪ねること。そして、予防策として「コンドームの使用」を忘れないことである。

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