なかなか治らない「うつ病」は「そううつ病」の可能性あり 速やかに適切な治療が必要

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 うつ状態が続く「うつ病」は、本人も周囲も比較的気づきやすい。一方、「そううつ病」と一般的に呼ばれる双極性障害は自他ともに気づかれにくく、医療機関でも見逃されがちだ。

 双極性障害は、そうとうつの状態が反復する疾患だ。そう状態は、いわゆるハイの状態。何日間も気分が高揚し、活力や活動が増え、眠らなくても平気になる。明るく陽気になるタイプもいれば、逆に怒りっぽく攻撃的になるタイプもいる。

 東京歯科大学精神科准教授の宗未来医師が言う。

「双極性障害の3分の2はうつ状態で発症し、そう状態よりうつ状態の期間の方が圧倒的に長い。そのため、医療機関を受診しても、ただの“うつ病”と診断されがちです。なかなか治らない“うつ病”の3割が実は双極性障害だった、という報告もあるほどです」

 そう状態で受診しても衝動性が高く、情緒不安定が目立つことから、パーソナリティー障害やADHD(注意欠陥多動性障害)と誤解されやすい。アルコールなどの依存症に陥りやすいため、双極性障害ではなく依存症ばかりに重きを置かれるケースも珍しくない。

「診断の難しい、いわゆる“隠れそううつ病”のようなケースでは、適切な治療にたどり着きにくい。“うつ病”と双極性障害の治療では薬の使い方から、心理社会的支援まで大きく異なり、双極性障害であれば、それに準じた治療を速やかに行う必要がある。というのも、双極性障害は一般人口の20~30倍も自殺の危険が高く、双極性障害患者の6~7%が自殺で死亡し、未治療では20%が自殺をするといわれているからです」(宗医師=以下同)

 今秋、日本うつ病学会の双極性障害治療ガイドラインが最新エビデンスに基づいた全面改訂版として発表される。今回、新たに設けられた章に「心理社会的な支援」があり、宗医師が執筆を担当している。

「双極性障害は薬物治療が基本ですが、それだけでは1年で4割、5年で7割という高い再発率が報告されています。そこに心理的な支援が加わることで、1年後の再発が半減すると検証で明らかになっています。その土台になるのは病気や対応の基本を学ぶ心理教育です。それに加えて、認知行動療法や対人関係・社会リズム療法、家族療法といった専門的な心理療法が必要に応じて追加の検討をされます」

■双極性障害を疑うポイントは?

 2022年版ガイドラインには、患者が明日からでも実践可能な、エビデンスに基づいた簡易かつ効果的な心理教育のエッセンスも紹介。「規則正しい生活習慣」「再発の早期発見と対応」など7項目がある。

「完璧主義に陥らず、できるところから一つずつ、無理なくはじめるのがコツです」

 うつ病が良くならないという人は、それが本当にうつ病なのか?

「過去のそう状態の有無は、双極性障害を疑うポイントになります。例えば普段と比べて、大声で早口やおしゃべり、散財、自信過剰、万能感、服装や化粧が派手、怒りっぽい、異性関係のだらしなさ、電話をかけまくる、寝ないで精力的……。“うつ病”だけでは、こういった症状は認めづらく、症状の一部でも過去に出現した時期があったなら、双極性障害の可能性も疑われます。また、体質も関係するので、血縁関係に双極性障害の方がいれば必ずではないですが、その可能性はあるかもしれません」

 双極性障害には1型と2型がある。

 2型は、1型よりもそう状態は軽度。しかし「軽いからよい」とは言えない。軽そうであるがゆえに「元気になった」「うつが良くなった」と判断されがちだが、調子が良いのは一時的で、2型は適切な治療をしないと人生の約半分を“うつ状態”で過ごしかねないともいわれている。少しでも疑う余地があれば、双極性障害に詳しい専門家を速やかに受診した方がいい。

 2022年版ガイドラインの発刊で、適切な診断・治療の普及が進むことが期待される。

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