Dr.中川 がんサバイバーの知恵

秋野暢子さんは体力低下を投稿 がん患者は週2回の筋トレを

秋野暢子さん
秋野暢子さん(C)日刊ゲンダイ

 がんと診断されると不安が募り、気分が落ち込みます。さらに治療中は肉体的なつらさも重なって、運動不足に拍車がかかることが珍しくありません。

「いつものルーティンコースの半分を倍の時間かけて歩いてみたら、いやはやなんとも体力、落ちてましたぞぉー」

 ブログにこんな投稿をしたのは、ステージ3の食道がんで闘病中の秋野暢子さん(65)です。放射線と4クールの抗がん剤治療を受けるため、6月から入院生活がスタート。放射線と3クールの抗がん剤治療を終え、いまは4クール目の開始に備えて自宅療養中に体力づくりでウオーキングに励んだときの感想だそうです。

 秋野さんの心掛けは素晴らしい。がん患者さんはぜひウオーキングに加えて、軽い筋トレを続けてほしいと思います。

 海外の研究では、治療中の身体活動量は、診断前の1割に激減。治療後も同2~3割程度しか回復しないと報告されています。

 これとは別の研究で、大腸がんの患者さんを追跡したところ、身体活動量が多い人ほど生命予後がよいことが分かりました。乳がんの患者さんの調査では、身体活動量が多いほど、死亡率や再発率が低いことも判明しています。

 国立がん研究センターは約8万人を約7.5年追跡。1日の身体活動量とがん罹患の関係を調べたところ、がんによっては身体活動量が高いほどがんになりにくい傾向が見て取れました。

 こうした国内外の研究結果から、がん患者さんも運動が推奨されています。その基準は、毎日20~30分、1週間に150分のウオーキングと週に2回の筋力トレーニングです。とにかく動く生活習慣を守ること。そのためにも仕事は辞めず、続けましょう。

 筋トレについては、東北大や早稲田大などの研究グループがこれまでの研究結果を網羅的に分析しました。

 その結果、筋トレをすると、がんや総死亡などのリスクが10~17%低下。がんや総死亡についてのリスクが最も下がる筋トレの時間は週30~60分で、週130~140分を超えるとリスクは高い値を示しています。つまり、筋トレをやりすぎるのはダメで、ほどほどがいいのです。

 筋トレとがんの関係は十分に解明されていませんが、生理活性物質のマイオカインが関係していると考えられます。これは筋肉が収縮するときに分泌される物質で、数十種類が見つかっていて、その中には外敵から身を守る免疫力を上げたり、抗がん作用が認められたりするものがあるのです。

 がん患者さんもそうでない方も、スクワットや腕立て伏せなど適度な筋トレをお勧めします。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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