緑内障とその予備軍は10月以降の薄暮時間帯での運転と歩行に注意

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「秋の日はつるべ落とし」とはよく言ったもので、秋の日没は早く、すぐに暗くなる。そのため、日没時刻の前後1時間にあたる「薄暮時間帯」は例年、交通事故が集中する。とくに10~12月が多いことで知られている。この時間帯の視力や視界などの見え方はどう変化するのか。「自由が丘清澤眼科」(東京・目黒区)の清澤源弘院長に話を聞いた。

 警察庁のホームページによると2017~21年の薄暮時間帯の交通死亡事故件数は6月の84件に対して、10月220件、11月260件、12月240件と2.5~3倍になる。

 しかも、薄暮時間帯は昼間と比べて「自動車対歩行者」による事故割合が3.6倍と多くなり、道路横断中が約9割を占める。

「この時間帯に事故が集中するのは、日没後、急に暗くなり、周囲の視界の視認性が低下し、距離や速度がわかりにくくなるためです。それは自動車のドライバーだけでなく、自転車に乗っている人、歩行者らも同じで、互いに互いを発見するのが遅れるからだと考えられます」

 なぜ、周囲が急に暗くなると、ものが見えづらくなるのか? それは、網膜にある錐体細胞と杆体細胞と呼ばれる2つの細胞の働きの切り替えが追いつかないからだ。

「網膜は、ものを見るためのフィルムにあたります。網膜の中心に多く分布して主に明るいところで働く錐体細胞と、視野中心からやや離れた位置にあって暗いところで働く杆体細胞があります。明るい場所から暗い場所へと移動すると、働く細胞は錐体視細胞から杆体視細胞へと交代します。この現象を『暗順応』と言います。逆に、暗い場所から明るい場所に移動すれば『明順応』が起きます。明順応よりも、暗順応の方がはるかに長く時間がかかるため、急に暗くなると見えづらくなるのです」

 通常は7分くらいで暗順応は完了するが、病気によってはそれが遅延する人がいるので注意したい。有名なのが夜盲症だ。主に杆体細胞が障害される病気で、先天性のものと後天性のものがある。

「先天性はさらに非進行性と進行性に分かれ、後者では成人以降での発症も珍しくありません。例えば、子どもの頃から始まり、徐々に視野が狭窄して視力も低下していく網膜色素変性症は、その代表です」

 一方、後天性の夜盲症では、成人以降に急激な夜盲を自覚することが多い。日本では腹部や消化器の手術後のビタミンA並びにE欠乏による夜盲症などが知られている。

 しかし、薄暮時間帯の運転で最も注意が必要なのは、患者数の多さの割に知られていない緑内障と加齢黄斑変性症のドライバーだ。

「緑内障の有病率は40代で20人に1人、60歳で10人に1人といわれるほど多い。主な症状として視野狭窄が知られていますが、実は暗順応の遅延が進むことが明らかになっています。米国で進行中の共同初期緑内障治療研究(CIGTS)では患者600人を対象としていますが、そのなかでは暗順応の遅延が見られたと米国の白内障と緑内障の専門医が報告しています。この専門医は別の研究では緑内障の自覚症状のない、高眼圧症の患者でさえも『暗順応遅延』があったと話しているのです」

■加齢黄斑変性症やアルツハイマー病でも「暗順応遅延」が起こる

 加齢黄斑変性症もまた、「暗順応遅延」が起きる目の病気だ。加齢によって黄斑部と呼ばれる、目の網膜中心部にある光感度の一番高い部位に変性が生じ、視界のゆがみや視力障害が起こる。このとき、錐体細胞と杆体細胞もダメージを受ける。

 また、アルツハイマー病でも暗順応が遅れるとの報告がある。

 がんにも注意したい。なかには中枢神経系へのがん転移ではなく、網膜色素変性症の種々の中枢神経症状を呈するケースがあるからだ。

「これを悪性腫瘍随伴神経症と呼び、このなかで網膜視細胞の障害を呈するものをがん関連網膜症(CAR)と言います。CARを引き起こす原発がんは、小細胞肺がんが最も多く、次いで消化器系および婦人科系のがんが多いとされます。CARは網膜色素変性症によく似た症状、すなわち杆体視細胞障害に基づく視感度の低下、視野狭窄などの症状があります」

 これからの季節、ドライバーも歩行者も横断歩道ではとくに注意が必要だ。ドライバーはライトを早めに点灯し、速度を落とす。運転支援システム搭載の車が増えたからといって油断しないことだ。

 歩行者や自転車利用者らは、ドライバーからは見えづらいことを意識する必要がある。運転手が発見しやすい目立つ色の衣服、靴、カバン、反射材やライトをつけることだ。何よりも重要なことは、眼科医を定期受診して目の健康診断を行うことだ。

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