“目の梅毒”とはどんな病気なのか…新規感染者1万人超え必至で注目

梅毒によるブドウ膜炎は増える傾向に
梅毒によるブドウ膜炎は増える傾向に

 梅毒感染者の急増が続いている。

 国立感染症研究所が21日に公表した「感染症週報」によると、10月3~9日で新たな梅毒患者と報告された数は161人。累積報告者数は9562人となった。12月までに1万人を超えるのは確実な情勢だ。そこで気になるのが梅毒による目の病気だ。

 自由が丘清澤眼科(東京・目黒区)の清澤源弘院長に聞いた。

「梅毒を引き起こす、トレポネーマ・パリドウム(TP)と呼ばれる病原体が目に感染した場合、一般的に現れるのが『ブドウ膜炎』です。これは目の中に炎症を起こす病気の総称で、『眼内炎』とも呼ばれます。目の中の網脈絡膜や視神経に障害を起こすため視力低下や視野欠損が生じるほか、透明な前房や硝子体に炎症細胞が浸潤するので、かすみ目、飛蚊症(虫のようなものが見える)、羞明(まぶしく感じる)などの自覚症状が現れます」

 日本ではこれまでブドウ膜炎に関する大規模調査が数回行われてきた。しかし、梅毒によるものは非常にまれな病気として「その他」に分類されてきたという。

 ところが、2016年調査では、「梅毒関連ブドウ膜炎」として、少なからぬ数の確定診断例が報告された。それ以降、梅毒によるブドウ膜炎は関心を集め、増える傾向にあるとの印象を持つ眼科医が増えているという。

 梅毒は大きく3期に分類される。早期顕症の1期はTP感染からしばらくして下疳と呼ばれる潰瘍が陰茎や大陰部、膣、肛門、唇、喉などに1~13週間ほどで現れる時期のこと。その後、下疳が消える。早期顕症2期は潜伏期を経て広い範囲で発疹やリンパ節の腫れがみられるようになる。同時に発熱、疲労感、食欲不振、体重減少などの症状が現れる。晩期は感染から数年から数十年経過して、大動脈など心臓につながる血管に感染して大動脈瘤が生じ、気管などを圧迫して声がかれたり、胸痛や心不全、髄膜炎などを起こす。梅毒の眼症状は1期から3期までのいずれでも起きるとされている。

■眼症状がある患者は意外と多い

「梅毒1期は自覚症状が少ないうえ、自然治癒してしまうので目の梅毒に気づく人はほぼいません。2期になると梅毒によるブドウ膜炎が見つかるようになります」

 ただし、同じブドウ膜炎でも目の中の発症箇所によって前部、中間部、後部、それに前部から後部まで広い範囲で炎症が見られる汎ブドウ膜炎がある。梅毒によるブドウ膜炎で多いのは、汎ブドウ膜炎で、前部ブドウ膜炎では虹彩毛様体炎として見つかることが多いという。

「第3期で見つかることはあまり多くありませんが、私が以前経験した40代男性は、物が二重に見えるという訴えで来院されました。血液検査の結果、梅毒による動眼神経麻痺だと判明。大学病院に依頼して後に斜視手術をしてもらいました。動眼、滑車、外転神経のいずれかが麻痺すると、その神経が支配していた領域の外眼筋が動かせなくなるので、麻痺性の斜視となります。すると、麻痺が起こっていない目は真っすぐ物を見られるものの、麻痺が起こっている目は別のところを見るため、物が二重に見えるのです。梅毒そのものは抗菌薬で治療しても、障害された神経は薬では元に戻らないことがあるのです。神経の障害としては視神経の萎縮で梅毒が見つかることも多い」

 高度情報社会の現在において、梅毒を3期まで放っておく人は少ないのではないかと思われがちだが、必ずしもそうではない。

 実際、「感染症週報」によると7月25日~9月18日に新規で報告された晩期顕症の患者数は11人に上っており、10月3~9日でも1人の報告があった。

 怖いのは、この数字は定点観測している医療機関での数字で、実際はもっと多いことだ。

「現在流行している梅毒は、男性2に対して女性が1の割合。男性なら20~40代、そして女性では20代に多いです。梅毒の女性が病気に気づかずに出産した場合、先天性梅毒による目の病気として子供にも病気が現れます。たとえば、生後3カ月ごろまでは網脈絡膜炎、乳幼児期には虹彩炎や角膜実質炎が起きることがあります」

 人は情報の8割を目から取得するといわれる。目の障害は人生の大きなハンディとなりかねない。梅毒による目の障害も頭の隅においておくことだ。

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