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全米で人工妊娠中絶の是非めぐる住民投票が注目だが…目的が州によって全く逆という驚き

中絶の権利に関する発言を行った際、後ろのステージに立っている人たちに挨拶するバイデン大統領(C)ロイター
中絶の権利に関する発言を行った際、後ろのステージに立っている人たちに挨拶するバイデン大統領(C)ロイター

 11月8日はアメリカ中間選挙です。上下院議員や州知事選以外に、いくつかの州で行われる住民投票が注目されています。人工妊娠中絶の是非を、議会でも裁判所でもなく、住民自身が決める投票だからです。

 アメリカ最高裁は6月末、それまで合法だった中絶の権利が、合衆国憲法では守られないと判断。中絶の是非は各州それぞれの決定に委ねられることになりました。国民の過半数の意思に反し、70年続いた女性の権利を覆した判断には衝撃が走り、全米で激しい抵抗運動が巻き起こりました。

 結局、全米50州のうち13州で中絶をほぼ全面的に禁止する法律が成立。14州で厳しい制限はあるが合法。それ以外の州では合法という、1つの国の中でパッチワークのようになっているのが現状です。

 こうした中で、いくつかの州で行われる中絶の是非をめぐる住民投票。驚くのは、目的が州によって全く逆だということです。

 まずカリフォルニア・ミシガン・バーモント州の3州は、州憲法に中絶の「権利」を明記するかどうかの住民投票。つまり現在合法のこれらの州でも、憲法に記載することで、今後万が一のことがあっても、中絶の権利は揺るがないものにしようという考え方です。

 一方、ケンタッキー州では全く逆で、州憲法に中絶を「禁止する」項目を加えるかどうかの住民投票。ケンタッキー州の中絶に関する法律は全米でも最も厳しく、ほぼ全面禁止と言っていい状況です。この禁止を半永久的なものにすることを意図した住民投票です。

 一体どんな結果になるのでしょうか。指標になるのは、8月に行われたカンザス州での同様の住民投票です。

 カンザス州は保守が圧倒的に強い州で、住民も中絶禁止に賛成票を投じるのかと思ったら、逆のことが起こりました。過半数が禁止に反対。つまり保守であっても、中絶の権利を認めるべきと考えていることがわかったのです。

 今回住民投票が行われるミシガン州は、保守とリベラルが拮抗するいわゆる激戦州。既に成立した中絶禁止法を差し止める裁判所命令により、ギリギリ手術を受けられる状況です。ここでもカンザス州と同じ結果が出るのかどうか?

 それによっては、全米に住民投票の動きが広がる可能性もあります。議会も裁判所もダメなら最後は住民投票、という民主主義の実験としても注目したいところです。

シェリー めぐみ

シェリー めぐみ

NYハーレムから、激動のアメリカをレポートするジャーナリスト。 ダイバーシティと人種問題、次世代を切りひらくZ世代、変貌するアメリカ政治が得意分野。 早稲稲田大学政経学部卒業後1991年NYに移住、FMラジオディレクターとしてニュース/エンタメ番組を手がけるかたわら、ロッキンオンなどの音楽誌に寄稿。メアリー・J・ブライジ、マライア・キャリー、ハービー・ハンコックなど大物ミュージシャンをはじめ、インタビューした相手は2000人を超える。現在フリージャーナリストとして、ラジオ、新聞、ウェブ媒体にて、政治、社会、エンタメなどジャンルを自由自在に横断し、一歩踏みこんだ情報を届けている。 2019年、ミレニアルとZ世代が本音で未来を語る座談会プロジェクト「NYフューチャーラボ」を立ち上げ、最先端を走り続けている。 ホームページURL: https://megumedia.com

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