最近、ある50代の患者さんからこんな質問がありました。
「腎臓の機能が下がった状態で運動するのはよくないのでしょうか? 40年以上前のことですが、弟が小学生の頃、健康診断で腎臓の数値が悪かったらしく、『1年間体育は見学するように』と言われたことがあると記憶しています。それ以降は問題なかったようで、翌年は体育の授業にも復帰したのですが……。記憶違いですか」
それは記憶違いではなく、まさにおっしゃる通りなんです。
「腎臓の機能が低下すると、運動はしないほうがいい、安静にしたほうがいい」という指導が、昭和の時代には医師からありました。いえ、昭和どころか、その指導が変わったのは、ここ10年ぐらいのこと。いまは「慢性腎臓病の方でも、適度な運動をしましょう」と推奨するようになっています。
医学は進歩し続けるものですから、それに伴って病気になった際の注意事項や指導も変わっていくこともあるということですね。現在では「腎臓リハビリテーション」という考えのもと、慢性腎臓病の患者さんにも適度な運動をしてもらうことを広めていこうという動きがあります。
腎臓リハビリテーションで期待できる効果には「身体機能の向上」「心臓、脳への保護」「腎臓の保護」があります。腎臓病の患者さんの身体機能は、健康な人に比べて7割程度になっているというデータがあり、ご高齢の腎臓病の患者さんでサルコペニアやフレイルと呼ばれる虚弱状態になる方が増えていることが近年課題になっています。
また、腎臓病の患者さんは、健康な人に比べると、心臓・脳の病気になる可能性が数倍高いという報告もあります。そこをなんとかしなければ、という思いがあり、腎臓リハビリテーションとして患者さんに運動してもらうことに着目しました。
ただし、すべての腎臓病の患者さんが運動を行っていいというものではありません。透析導入直前の患者さんや、重度の糖尿病、足の血流が悪い人などは、腎臓リハビリテーションを勧められないことも。自己流で運動するのではなく、必ず主治医の先生、運動の専門家である理学療法士や作業療法士と相談した上で、腎臓リハビリテーションを始めるようにしてください。
健康長寿のカギは腎臓にあり