名医が答える病気と体の悩み

認知症の家族を施設に入所させた方がいいタイミングは?

認知症は思ったよりも早く進行する
認知症は思ったよりも早く進行する

 認知症の家族を自宅で介護したいが、個人では限界を迎える場面があります。 

 アルツハイマー型認知症の余命は、初期症状から10~15年、介護の平均期間は6~7年といわれます。比較的初期段階には、脳の働きが低下することによって直接的に起こる認知機能の障害(中核症状)が現れます。つい先ほどの記憶を忘れる「記憶障害」、時間や場所・人物など自分が置かれている状況が分からなくなる「見当識障害」「理解・判断力の低下」「言語障害(失語)」「失行・失認」といった症状で、この時点であれば自宅介護は可能です。しかし、進行は止まらないため、どこかの時点でやむを得ず施設への入所を検討しなければならなくなる家庭は少なくありません。その際、介護者(する側)、被介護者(される側)それぞれ「身内の介護を離れるべき」状態がありますので、参考にしてください。

 まず介護者の状態として、介護に時間を取られて心身の余裕をなくすことが問題になっています。余裕がなくなると被介護者に優しくできずに手を上げてしまうリスクもあります。クリニックにも「うつ病」や「不眠症」と診断される介護者さんがいます。余裕を失うのは眠れなくなるのが最大の原因です。深夜帯に平均で5~6時間程度の睡眠時間が維持できなくなったら、早めに手を打ってほしいです。

 被介護者の状態として、「徘徊(はいかい)」は当然ながら、それ以前の段階で「転倒」が多くなったり、「トイレに1人で行けなくなった」ら、個人の介護の手を離れるようお勧めしています。排便は深夜でもコントロールできませんし、被介護者が起きてしまうと寝付くまで見守らなければなりません。トイレは何十年と毎日してきた日常行動ですから、1人でできなくなるのは「24時間の見守りが必要となる」サインになります。また、食べ物が腐っているかを判断できずに何でも口にするようになったときも“見張り”が必要な状態です。

 ただ、個人差はあるものの認知症は思ったよりも早く進行します。異変を感じてからでは入所施設が見つからないケースは多い。そのため、介護者の方には家族が認知症と診断されたら、家族会議を開くよう勧めています。公的サービスの確認や施設見学の手配、いま被介護者はどの位置にいるのか、軽症のうちにそうした状況を把握して、被介護者の将来設計をしてもらいます。介護者を守ることにもつながります。

 じつは深刻なのが、被介護者が亡くなった後に「燃え尽き症候群」になり、心身の病気を発症してしまう介護者が少なくないことです。お互いのために介護に“リミット”を設けるのは悪いことだと思ってはいけません。

▽大川昭宏(おおかわ・あきひろ) 1997年帝京大学医学部卒業。国立精神神経医療研究センター、国立国際医療研究センター心療内科勤務などを経て、現在、かつしか心身総合クリニック院長。専門は心療内科全般、職場のメンタルヘルス(産業医歴20年以上)。

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