Dr.中川 がんサバイバーの知恵

「陽子線超小型装置」普及で広がる治療の可能性 江戸川病院で1号機導入へ

超小型陽子線がん治療装置(提供写真)
超小型陽子線がん治療装置(提供写真)

 陽子線治療をご存じですか。放射線治療のひとつで、従来のX線に比べてがんにより高いエネルギーをピンポイントで照射できるためとても効果的ですが、がん患者が多い東京にはその施設がありませんでした。

 今後、東京をはじめ都市部で陽子線治療が普及しそうな報道があります。

 スタートアップ企業のビードットメディカルは超小型陽子線がん治療装置を開発。その1号機導入について今月20日、東京の江戸川病院と基本合意が締結されました。都内で陽子線治療が広がるのが目前です。

 従来の陽子線治療装置は、3階建てビルほどの高さとテニスコート1面分ほどの広さが必要でした。都心の医療機関でこのスペースを確保するのは難しい。

 さらに設置費用は50億円と、X線の10倍。土地の確保とコストの高さがネックだったのです。

 話題の超小型装置は、高さは3分の1と従来のX線装置と同じくらいのサイズになり、コストも半減。設置後の維持費も半分に抑えることに成功したといいます。2つのハードルが下がり、現在の19カ所から拡大への弾みがつきました。

 そこで気になるのが、陽子線の治療効果でしょう。X線は体の表面付近で線量が最大化。その後は、減少しながら体の深部に進みます。体の表面やがんの後ろの正常細胞へのダメージも少なくありません。

■導入施設が増えれば保険適用になるがんの種類も増える

 一方、陽子線は、体表からある深さで線量が最大化する特徴があるため、照射する陽子線のエネルギー量や位置などを調節することで、がんの位置に合わせてエネルギーを最大化できます。その後は深部にほとんど達しないため、がんの手前や後ろなど正常組織への副作用をX線より大きく抑えられるのです。

 強力ゆえ、X線より照射回数が少なく、通院回数も少ない。現役世代は仕事と治療の両立をしやすくなります。

 陽子線治療は2016年に小児がんが保険適用されてから、一部の前立腺がんや手術不能の骨軟部腫瘍、手術不能の肝臓がん、手術不能の局所進行すい臓がんなどに広がっています。

 たとえば、小児がんをX線で治療すると、循環器や呼吸器、腎臓、生殖器などへの影響が問題になりますが、陽子線はそのダメージがほとんどありません。また、肝臓がんの中で、門脈という重要な血管に腫瘍があるタイプは、ほかの治療が困難ですが、陽子線は有望です。早期発見が難しいすい臓がんでは、臨床試験での2年生存率がX線を上回っています。

 導入施設が増えると、保険適用になるがんの種類も増えるでしょう。今後に期待です。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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