肥満・糖尿病・脂肪肝は「肝がん」のリスクを上げる…がん死亡数では第5位

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 がん死亡数第5位の肝がんは、肥満の人にリスクが高い病気だ。知っておくべきことを、東京大学消化器内科の建石良介医師に聞いた。

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 肝がんには、肝臓自体から発症する原発性肝がんと、他臓器にできたがんが転移してきた転移性がんがある。肝がんと呼ばれるのは原発性肝がんで、かつてはこの大半を肝炎ウイルスによるものが占めていた。

「2000年の原発性肝がん追跡調査では、70%がC型肝炎ウイルスキャリアーでした。慢性C型肝炎では肝がんのリスクが142倍、慢性B型肝炎では43倍になる。がんのリスク因子では喫煙が肺がんを4.4倍、ピロリ菌が胃がんを5.1倍高くすることが分かっており、それらと比べても、B・C型肝炎ウイルスと肝がんの関係はかなり強い」

 しかし、肝炎ウイルスへの対策はかなり進んでいる。B型肝炎ウイルスでは、主要な感染経路である母子感染への防止事業が1985年、世界に先駆けて開始され、2016年からは出生児へのワクチン定期接種も行われている。

「現在は若年者の陽性者は極めて少なくなっています」

 C型肝炎は、1992年にインターフェロン療法が登場した当初は副作用が強く、効き目が悪く、高齢者や肝硬変などは非適応で、「最も発がん率が高い人へ治療が届いていませんでした」。

 しかし現在は「直接型抗ウイルス薬」が複数種類登場しており、ほぼ全員がウイルスを排除できるようになった。

「結果、肝炎ウイルスによる肝がんは減り、非肝炎ウイルスの肝がんが増えています。その数は20年で約5倍です」

■肝がんになりやすい要素を抱えた人は多い

 では非肝炎ウイルスの肝がんでは、何が原因のものが増えているのか?

 まずは、肥満。

「肥満ががんのリスク因子であることはあまり知られていません。北米の90万人のコホート研究では、男性では肝がんが最も肥満の影響を受けるとの結果でした」

 標準体重に対し、BMI(体格指数)が35を超えている人の肝がんの死亡リスクは、男性で4.5倍、女性で1.6倍。BMI30以上が肥満である欧米に対し、日本ではBMI25以上が肥満で、BMI35を超える人は多くないが、欧米人より日本人は肥満度が低くても内臓脂肪などの影響を受けやすいことがわかっている。

 次に、糖尿病だ。

「米国、日本どちらの研究においても、糖尿病の人の肝がんの死亡リスクは約2倍高い。糖尿病患者の死因の6%は肝がんという糖尿病学会の報告もあります」

 さらに、肝臓に脂肪がたまる脂肪肝も、肝がんリスクを高める。

 脂肪肝には、アルコールをほとんど摂取しなくても発症するNASH(非アルコール性脂肪肝炎)があり、近年はこのNASHによる肝がんも増えている。NASHは、肥満や糖尿病、脂質異常症、高血圧がある人にリスクが高い。

 こうやってみると、糖尿病、脂肪肝ともに、肥満が関係しているわけだがーー。

「メカニズムとして、内臓脂肪が蓄積されるとアディポサイトカインというホルモンの分泌不全が起こり、炎症やがんを促進させる因子が増え、がんを抑制する因子が減る。また肥満はインスリン抵抗性を起こすため膵臓がインスリンをたくさん出すようになり、このインスリンががん細胞の増殖にかかわっていると考えられる。さらに、インスリンは門脈を通って肝臓に最初に流れ込むため、肝臓に最も影響を与えるとみられる」

 これまではB型・C型肝炎ウイルス保持者かどうかが、肝がんになりやすいかどうかの分かれ道となっていた。今後は、肥満、糖尿病、脂肪肝が分かれ道になるかもしれない。言い換えれば、肝がんになりやすい要素を抱えた人はたくさんいるということだ。該当するなら、まずはその改善、治療に取り組むべきだ。

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