「高血圧」「心臓病」の人が歯科治療を受けるとき注意すべきポイント

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 健康寿命を延ばすためには歯のケアが欠かせない。しかし、持病を抱えている人が歯科治療を受ける際には注意が必要なケースがある。今回は「高血圧」と「心臓病」の場合を取り上げる。小林歯科医院院長の小林友貴氏に聞いた。

「高血圧症」は生活習慣病の中で患者数が最も多い。日本では約4300万人と推計され、20歳以上のおよそ2人に1人は高血圧だといわれている。日本高血圧学会では「収縮期血圧(上)140㎜Hg以上/拡張期血圧(下)90㎜Hg以上」が高血圧症と定められ、投薬治療や食事療法が行われる。患者数が多いだけに、高血圧で降圧剤を服用している人が歯科治療のために来院するケースも多いという。

「高血圧の患者さんの歯科治療では、出血を伴う外科治療の際に出血しやすくなり、止血が困難な状況を招くリスクがあります。また、治療中に血圧が急激に上昇して、緊急性のある心臓や脳の疾患につながる可能性もある。そのため、治療前の問診で高血圧の有無や服薬の状況をしっかり確認し、直近の血圧の数値を聞いたうえで治療に当たります。来院時の血圧が180/120以上の場合は、歯科治療をいったん延期してまずは血圧の治療を優先してもらい、血圧がきちんとコントロールできている状態になってから、あらためて歯科治療を行う場合もあります」

 高血圧の患者に対して抜歯などの外科治療を実施する際、小林歯科医院では血圧を測定できるモニターを患者に装着してもらいながら行っているという。

「歯科治療は精神的にも肉体的にも大きなストレスがかかるため、血中カテコールアミン濃度が上昇して心拍出量と末梢血管抵抗の増加を招き、急激に血圧が上がるケースがあります。治療中に上の血圧が200近くまで上昇する人もいるほどです。当院では、『最高血圧×心拍数』で計算するRPPという数値が1万4000以上になった場合は治療を中断し、正常範囲(7000~1万2000)に戻るまで待ってから再開するケースもあります」

 高血圧の人は、歯科治療の際に使用する麻酔薬にも注意が必要だ。麻酔薬の中には血管収縮剤(アドレナリンなど)が含まれているものがあり、注入直後から一時的に血圧が上昇する。

「通常であれば短時間で血圧は正常に戻りますが、高血圧の患者さんは注意が必要です。血圧上昇が禁忌である患者さんの場合、血管収縮剤が含まれていない麻酔薬を選択しますが、そうしたタイプは作用時間が短く麻酔効果もやや弱くなるため、慎重な処置が求められます。また、出血が止まらない可能性がある患者さんには、止血効果を目的に血管収縮剤が含まれている麻酔薬を局所的に使うケースもあります。患者さんの状況によって麻酔薬を使い分けなければならないので、高血圧の既往歴や血圧の数値、飲んでいる薬の情報は、必ず歯科医に伝えてください」

■抗凝固薬を飲んでいる人は血が止まりにくい

 心臓や血管の病気を抱えていたり、その予防のために「抗凝固薬」(ワーファリンなど)や「抗血小板薬」(バイアスピリンなど)を服用している人も、歯科治療の際は気をつけたい。いずれも血液をサラサラにして血栓の生成を防ぐことを目的として、狭心症、心筋梗塞、脳梗塞などの予防や、心臓弁膜症で人工弁置換術を受けた人にも使われる。

「日頃からそれらの薬を服用している患者さんは、抜歯などの出血を伴う外科的な歯科治療で出血が止まらなくなるリスクがあります。そのため、かつては治療を実施する前に血液をサラサラにする薬を処方している担当医に確認し、一定期間だけ休薬してもらってから外科治療が行われていました。しかし、歯科治療のために休薬をしたことで心筋梗塞で死亡した事例や、抗凝固薬を中断すると1%が重篤な血栓塞栓症を発症するといったデータが報告され、休薬はリスクが高いことがわかりました。そのため、現在は休薬せずに止血を徹底する方向で外科治療が行われています」

 抗凝固薬(主にワーファリン)を服用している人の外科的な歯科治療の際、目安にされるのが「PT-INR」の検査数値だ。血液の凝固因子の活性を総合的に判定する検査で、薬剤の投与量管理のための指標として用いられている。

「正常値は1.0ですが、2.0~3.0の範囲で投薬管理されているケースも多い。外科的な歯科治療では、普通抜歯であれば4.0までは実施可能とされています。治療を行う場合は止血が重要で、まずは抜歯後にできたくぼみに止血剤を入れて縫い合わせます。さらにガーゼを15~20分ほど強めに噛んでもらいます。通常であれば5分程度ですが、抗凝固薬を服用している患者さんは長めに噛むことでしっかり圧迫して止血する必要があるのです」

 治療前の問診で既往歴や服薬の状況を正しく歯科医に伝えなければ、深刻なトラブルを招く危険がある。不安がある人は歯科治療の際もお薬手帳を持参して、指示を仰ぎたい。

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