国立感染研が公表 「インフルエンザ」「RSウイルス」「梅毒」昨年末の感染状況

RSウイルス感染症は2歳までにほとんどの子供がかかる
RSウイルス感染症は2歳までにほとんどの子供がかかる

 3年ぶりに日常生活が戻った昨年末は、新型コロナの新規感染者数の増加に注意を払いつつも久しぶりに自由を楽しんだ人も多かったのではないか。そこで気になるのは、感染症対策の意識が薄れたことでこれまで抑えられてきたインフルエンザやRSウイルス感染症、それに急増が目立つ梅毒などの状況だ。人出が増えた昨年のクリスマス前後の感染動向はどうだったのか。公衆衛生の専門家である岩室紳也医師に聞いた。

 国立感染症研究所は10日、2022年第51週(12月19~25日)の感染症発生動向調査週報(IDWR)を発表した。IDWRは1999(平成11)年施行の「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(感染症法)に基づき、同法に定義された病気の患者が全国でどのくらい発生しているのかを調査・集計しているもの。

 今回の報告でインフルエンザの新規報告総数6103人、定点当たりは1.24人で流行期中となるが、発生状況は東高西低。都道府県別の報告数は神奈川(984人)、東京(939人)、大阪(664人)、北海道(397人)、埼玉(308人)に対して、広島(7人)、福岡(362人)、長崎(16人)だった。

 定点当たりの報告数で見ると富山(4.21人)、神奈川(2.79人)、岩手(2.56人)、青森(2.27人)、大阪(2.21人)が目立った。

「インフルエンザが東に多く、西に少ないのは新型コロナとインフルエンザの感染経路が同じだから当然です。第8波の新型コロナは東日本で始まり、西日本に広がっています。それと同じ傾向だと思います」

 そもそも、昨年、一昨年とほぼゼロだったインフルエンザ報告数が今回増えているのは、医療機関が検査を積極的に行うようになったからだとの見方がある。新型コロナとの同時流行の懸念が広がり、厚労省が同時検査キットを承認するなどインフルエンザを積極的にあぶり出そうと検査を奨励したというのである。これまでは新型コロナとインフルエンザの検査については、2度検査することの感染リスクに加え、保険点数を請求しても片方しか認められないケースもあったという。それが今年は認められ、手間暇かけずに収入増になる。インフルエンザ流行の背景にはそうした医療機関の事情もあるのではないか、との推測も成り立つという。

「こうした疑いを晴らすためにも、政府機関は単にインフルエンザの新規報告数だけでなく、インフルエンザ検査数も併せて発表することが必要だと考えます」

■梅毒の増加は発見の遅れが一因か

 一方、米国で新型コロナ、インフルエンザと共にトリプル感染の懸念が囁かれていた呼吸器疾患を引き起こすRSウイルス感染症。今回は総数で1257件の報告があり、報告数が多かったのは福島(129人)、北海道(96人)、福岡(77人)、宮城(74人)。定点当たりで目立ったのは福島(2.58人)、山形(1.59人)、宮城(1.28人)、佐賀(1.22人)だった。

「もともと2歳までにほとんどのお子さんが一度はかかる病気です。例年以上に流行しているとすれば、新型コロナ禍の厳しい感染対策で無事でいられた子供たちへのリスクが、ここにきて上がってきたということではないでしょうか。通常ならこの時季の子供たちはさまざまな感染症を経験することで免疫組織の動かし方を学びます。それができなかったお子さんがいることを理解して、周りの大人はこれまで以上に子供たちの様子を見守る必要があります」

 1万人突破が話題になった梅毒は新たに169人の新規感染者が報告され、累計1万2757人となった。目立ったのは東京(31人)、大阪(24人)、北海道(14人)、神奈川(12人)、兵庫(8人)、福岡(同)などだが、奈良(5人)、山口(同)、熊本(同)、宮崎(同)など地方に広がっていることは注目に値する。

「梅毒は治療すれば治る病気です。しかし、これだけ増えていることは発見が遅れていることも一因だと考えられます。地方で広がっているのは、梅毒を診た経験のある医師が少ないことも影響しているのではないでしょうか」

 新型コロナの致死率が低下してインフルエンザ並みになったからといって、感染対策そのものをおろそかにしてはいけない。今回のIDWRからは、そんなことが読み取れるのではないか。

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