「水虫喘息」は冬場でも気が抜けない 高齢者の介護現場での症例も

写真はイメージ
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 激しい咳(せき)が出て、ゼーゼー、ヒューヒューといった呼吸や息苦しくなる発作が起きる喘息(ぜんそく)。子供の病気だと思われがちだが、大人になって発症する場合もある。喘息は呼吸をする気道に起こる病気で、主にアレルギー反応によって気管支の筋肉が収縮または閉塞することで起こる。一度発症するとアレルギーを引き起こす物質に接することで重症化することがある。中には、自身では思いもよらぬことが引き金になるケースがあるという。「弘邦医院」(東京・江戸川区)の林雅之院長に聞いた。

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「最近は犬や猫を室内で飼う人が増え、ペットが落とした毛などが原因で喘息症状を起こす人がいますが、注意したいのは『水虫』です。水虫というと夏場の病気のイメージがありますが、いまは冬場でも水虫に悩む人が増えています。水虫の原因となる白癬菌は高温多湿を好む性質がありますが、近年では暖房の関係で冬でも室内が高温多湿になりやすいからです。しかも、冬場は厚手のソックスやブーツなどを長時間使用する人も多いことから足が蒸れて白癬菌が増えやすいのです。そして白癬菌に侵された皮膚の断片が床に落ちたあと、何かの拍子で舞い上がるなどして、白癬菌を吸い込むことでアレルギー反応が起きて喘息が重症化することが報告されているのです」

 実際、米国の喘息管理ガイドラインでは、ハウスダスト、花粉などと並んで真菌の管理が重要とされている。水虫の原因となる白癬菌は真菌の一種で、白癬菌が原因で喘息が重症化したケースが報告されている。

「そもそも喘息の患者さんの気道は敏感で、塞がりやすいよう変化していて、アレルギー発作が起こると一気に気道が狭くなって重症化してしまうのです」

■爪白癬は高齢になるほど増える

 非アレルギー性喘息として治療を受けていた30代の看護師は、出勤状況から、老人介護施設で白癬患者のおむつ交換や入浴補助をした日の夜に限って喘息症状がひどくなることが判明。マスクを着用したり、総合病院の手術室へ転職することによって喘息症状が出なくなった、との症例報告もある。この看護師には白癬菌はなかった。

「白癬菌は日本を代表する表在性皮膚真菌症で、頭部白癬、体部白癬、股部白癬、足白癬、爪白癬に大別されます。このうち足白癬と爪白癬の有病率は30%を超えると推計されており、白癬菌の感染といえば水虫がイメージされているのです」

 日本の水虫患者数は2500万人いるといわれる。

 爪白癬は高齢になるほど増える傾向にあり、米国では60歳以上の4割は爪白癬だといわれている。

「日本における白癬の原因糸状菌の大部分はトリコフィトンです。トリコフィトンはアレルギー性鼻炎、慢性じんましんといったアレルギー性疾患との関係が昔から指摘されています。ところが、それが世間的にはあまり認識されていません」

 その理由のひとつは、一般的なアレルギー検査ではわからないからだ。

「たとえば、MAST36アレルゲン検査は少量の血液で一度に36種類のアレルギーの原因物質について、自分がアレルギー反応を示すかどうかを調べられます。また、MAST48mixテストは一度に48種類のアレルギー反応を調べることができます。しかし、これらの検査にはトリコフィトン特異的IgE抗体が含まれていないのです」

 そのため、白癬アレルギーがあるか否かを調べるにはトリコフィトン特異的IgE抗体検査をする必要がある。

 仮にそれが陽性で喘息症状があって白癬菌に感染している人は、抗真菌薬で治療することで喘息症状が改善する場合がある。

 また、自身は白癬菌に感染していないが、白癬菌に感染している人との接触が多い場合──たとえば看護師や柔道整復師で気管支喘息が悪化している場合は、マスクを着用したりすることで喘息症状を改善できる可能性が高い。

 なお、自分自身が白癬菌の感染に気が付いていない人も少なくない。かゆみがひどいなど自覚症状があれば認識するが、自覚症状のない場合もある。自分自身のためばかりでなく、周りを水虫喘息で苦しめないためにも気になる人は皮膚科を受診することだ。

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