以前、副腎皮質ステロイドが含まれている薬は炎症を抑えるものの、免疫も抑制するため感染症にとっては良くないとお話ししました。しかし、必ずしも感染症にはNGというわけではありません。特に命に関わる重症感染症では使われるケースがあります。
たとえば、新型コロナ感染症の中等症~重症では投薬されています。新型コロナ感染症の重症例では肺障害及び多臓器不全をもたらす全身性炎症反応が発現するので、ステロイドの強い抗炎症効果によってこれらの有害な炎症反応を予防または抑制する可能性が考えられているのです。実際、投薬により死亡率の減少も示されています。ただし、軽症例へのステロイド薬の投薬では改善効果はみられなかったとの報告があります。
他にもステロイド薬を使用する重症感染症として「細菌性髄膜炎」がよく知られています。細菌性髄膜炎は、脳と脊髄の周囲を覆っている髄膜に細菌が感染することにより発症します。主な原因として、中耳炎、副鼻腔炎、血液感染、椎体(椎骨の円柱状の部分)の感染、脳神経外科の手術後などが挙げられます。
成人の細菌性髄膜炎の原因菌は肺炎球菌が最も高頻度で、50歳以上では約80%を占めるともいわれています。若年者ではインフルエンザ菌、乳児では大腸菌などもみられます。症状は、発熱、頭痛、首の硬直、吐き気、嘔吐などが現れます。
背中に針を刺して脳脊髄液を採取し、中に細菌がいるかどうかを調べる検査(腰椎穿刺)を行って診断しますが、細菌性髄膜炎は命に関わる感染症なので、疑われた時点で直ちに治療を開始します。抗菌薬とステロイド薬の点滴投与で、抗菌薬は高用量の使用が必要です。
髄膜炎の予防にはワクチンが広く知られています。乳幼児には、インフルエンザ菌に対するヒブワクチンと小児用肺炎球菌ワクチンの2つのワクチンの接種が有効です。 肺炎球菌ワクチンは65歳以上における肺炎球菌感染による髄膜炎と菌血症の予防においても非常に有効で、肺炎球菌による髄膜炎と菌血症を合わせた重症感染症の発症率を、ワクチン未接種の場合と比較して74%減少させたという結果もあります。
感染症別 正しいクスリの使い方