便秘持ちは“健康に”長生きはできない…高血圧だと脳卒中やくも膜下出血のリスクが上昇

便秘はさまざまな病気とリンクしている
便秘はさまざまな病気とリンクしている

 便秘は、かつては消化器科の医師においても関心が低いものだった。しかし、2012年に約30年ぶりに便秘の治療薬が発売され、17年には初のガイドライン「慢性便秘症診療ガイドライン2017」が発刊。それ以降も新薬が次々に発売され、「便秘は、治療が必要な慢性便秘症という病気」という認識が、消化器内科医を中心に浸透しつつある。一方で、一般の人にとっては「たかが便秘」という思い込みが依然強い。冬は、寒さで交感神経が優位に働き腸の働きが鈍くなること、そして水分不足や運動不足から便秘になりやすい季節だが、改めて便秘についての正しい知識を持ってはどうか。「慢性便秘症診療ガイドライン2017」の作成委員長を務めた川西市立総合医療センター総長の三輪洋人医師(消化器内科専門医)に話を聞いた。

「近年、便秘を治療する新薬が複数登場し、さらには便秘自体がさまざまな病気とリンクしていることが研究で明らかになり、便秘はコントロールすべきものという医学的コンセンサスが得られるようになってきました」

 慢性便秘症の治療薬は、かつては2つのタイプしかなかった。腸に水分を集め便を軟らかくする酸化マグネシウムと、大腸に大蠕動を起こして排便を促す刺激性下剤だ。しかし12年以降、従来薬と作用機序が異なる新薬の登場や、既存薬の適応拡大が続き、この11年間で6種類の薬(アミティーザ、スインプロイク、リンゼス、モビコール、グーフィス、ラグノス=すべて商品名)が加わった。

■腎臓病、糖尿病、呼吸器疾患とも関連

 便秘と関係している病気はいくつもある。大腸がんやパーキンソン病は、自覚症状のひとつが便秘だ。高血圧の人が便秘でトイレでいきむと、血圧が上昇し、脳卒中やくも膜下出血のリスクが高くなる。便秘が慢性腎臓病(CKD)の発症や進行と密接に関係しており、適切な便通管理がCKDの治療に必要であることも指摘されている。

「糖尿病で血糖コントロールが悪いと、肛門や直腸の機能が低下し、便秘になりやすい。便秘で呼吸器疾患が悪化することも観察研究でわかっています」

 15年にわたる米国の生存調査では、慢性便秘がある人は、そうでない人と比べて生存率が低いとの結果が出ている。

 便が出づらい、排便後すっきりせず残便感がある、コロコロした便や水便、いきまないと便が出ない、腹部膨満感をはじめとする不快症状がある──などに該当するなら、慢性便秘症を疑い、内科や消化器内科を受診するべきだ。便秘そのものの改善に加え、関連している病気の早期発見、早期治療につながる。

 慢性便秘症であれば、治療はどうなるのか?

「慢性便秘症には、排便回数減少型、排便困難型などいくつかのタイプがありますが、たとえば排便困難型は便を指でかき出さないと出ないといったふうに症状がかなりひどい。『便秘があるけど何とか自分で対処してきた』といった人のほとんどは排便回数減少型です。適切な便秘薬の使用と生活習慣の改善で対処できます」

 12年以降の新薬は効果が高いが、それらの薬を用いらずとも、多くの場合、従来の酸化マグネシウムで快適な排便を取り戻せる。

「酸化マグネシウムは古い薬で、臨床結果などのエビデンスはなかったのですが、私が兵庫医科大学のグループで行った研究で、酸化マグネシウムと偽薬の二重盲検法によって、酸化マグネシウムが効果と安全面で偽薬より有意に優れていることを確認しました。ただ、長期間使い続けたり、使用量が多いと体内に吸収され、危険な高マグネシウム血症を発症する恐れがあります。特に腎機能が衰えている人、高齢者で注意が必要です。医師の管理のもとに使用してください」

「水溶性・非水溶性の食物繊維をバランスよく摂取する」「水分をこまめに取る」「体を動かす」ことも、便秘対策に不可欠。

 市販の下剤は、刺激性下剤の成分が含まれているものが少なくない。刺激性下剤の成分は大腸の神経を壊してしまうリスクがあり、薬なしには排便が難しくなることも。

 刺激性下剤の成分が含まれていることを知らずに使っていることもあるので、繰り返し使用するなら、病院を受診したほうがいい。

◆50歳を越えたら…

 便秘があろうとなかろうと、50歳を越えたら一度は受けるべきなのが、大腸がんの有無を調べる大腸内視鏡検査。便秘は大腸がんの自覚症状だが、がんがかなり進行してからでないと症状が出ない。大腸がんは早期発見すれば生命予後が良いがん。大腸内視鏡検査を受けて、大腸がんの見逃しを避けたい。

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