コロナ対策を続けても「結核」はなぜ減らない? 新規感染者は毎年1万人超

毎年1万人以上が罹患している(写真はイメージ)
毎年1万人以上が罹患している(写真はイメージ)

 日本では「結核」は昔の病気のイメージがあるが間違いだ。毎年1万人以上が新たに罹患し、1000人超が亡くなっている。なぜ、結核は日本からなくならないのか? 公益財団法人結核予防会結核研究所の加藤誠也所長に話を聞いた。

 結核とは結核菌に感染することで発症する病気のこと。咳や痰を主症状とする肺病と思われがちだが、リンパ節、骨、脳、目などあらゆる臓器で発生する可能性がある。発症後、放置すると肺やその他の組織が破壊され、命の危機を招く。

 結核菌は、人が「咳」をすることで空気中にまき散らされ、それを他の人が吸い込むことによって感染する。いわゆる空気感染(飛沫核感染)である。ただし、手を握る、同じ食器を使うくらいでは感染しない。また、換気が悪く狭い場所などでは結核菌が長く滞留するため、目の前に感染者がいなくても感染するケースもあるという。

 つまり、結核は新型コロナウイルスと似た感染経路を持つ。この3年間徹底した新型コロナ対策をしていながら、なぜ結核はコロナのように減らないのか?

「結核菌は感染すると体の中で何年でも休眠状態で生き続けることができ、多くの人は生涯問題を起こしません。この段階を潜在性感染と言い、加齢や病気などで免疫が低下して活動性結核となり、症状が現れると、人にうつす可能性が出てきます。結核はその意味で急性の病気でなく、慢性の感染症なのです。ですから、結核を発症している高齢者の大半は、ずっと以前に感染していて、加齢などで免疫が衰えたことで発症しているに過ぎないのです」

 事実、現在、活動性結核として登録されている7割以上は60歳以上で、約4割は80歳以上。この世代は結核が蔓延していた時代を生き抜いた高齢者であり、免疫力が下がれば活動性結核となって発症するのは当然のことなのだ。

「実際、結核患者の15%近くが糖尿病の患者さんです。ほかに、じん肺、がん、エイズウイルス(HIV)感染、免疫抑制剤治療中の人などが増えて、それが原因で結核になる例が増えています。ですから、新型コロナ対策は潜在性感染の減少につながった可能性はあっても、高齢世代の活動性結核の減少には必ずしもつながらないのです」

 持病のある高齢者に結核の症状が出れば重症率は高くなる。結核と診断されて治療を開始した80歳代の患者の約38%、90歳以上では約54%が亡くなっている。とはいえ、日本の結核の罹患者数は徐々に減少している。人口10万人当たりの結核の罹患者数が10人を切ると国際的には「低蔓延国」に認定される。日本は昨年、9.2人となり悲願の低蔓延国入りした。

「1943年の人口10万人当たりの結核死亡者235人。これは2018年の約230倍に当たります。それから比べればウソのような減少です。しかし、人口10万人当たりの新規罹患者数は米国で2人、ノルウェーで3人で、9.2人の日本はまだ多い。20年以降の減少は、新型コロナで受診する人が少なかったせいで診断・報告された人は減りましたが、実際の患者数はそれほど減っていないという見方もあり、油断できません」

■診断の遅れも要因のひとつ

 気になるのは日本の結核患者数は偏在していること。

 都道府県別の人口10万人当たりの結核罹患率は長崎、大阪、徳島、沖縄、愛知の順に高く、山梨、秋田、岩手、長野、福島の順に低くなっている。長崎の結核罹患率は13.5で、最も低い山梨の4.3の3.1倍だ。

「長崎の結核罹患率がなぜ高いかはハッキリしていません。ただ、大阪などの大都市でホームレスが多いエリアでは結核患者が多いことが知られています。健診の機会が乏しく、健康保険を持っていない人が多い。しかも経済的に困窮しており、症状が現れた人を対象とした結核対策だけでは結核問題が解決できないことも事実です」

 日本で結核患者がなかなか減らない理由は他にもある。診断の遅れもそのひとつ。それにより集団感染・院内感染が増加している。

「18年までの10年間に延べ622件の集団感染が起きています。最も多いのは会社などの事業所の31%、次いで医療機関の16%、老人や障害者施設・刑務所の10%、学校10%などです。結核の集団感染は同一の感染源が、2家族以上にまたがり、20人以上に結核を感染させた場合と定義されています。集団感染が増えているということは一般の人だけでなく医療機関で働く人の間でも結核への意識が薄れ、結核の早期発見がしづらくなっていることを示します」

 結核は早期発見・早期治療により治せる病気になっている。

 咳や痰などの症状が2週間以上続く、体重が減った、など結核を疑う症状があるときは、早めに医療機関を受診することだ。

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