Dr.中川 がんサバイバーの知恵

29歳の女流棋士・堀彩乃さんが舌がん罹患 2週間以上の口内炎は専門医へ

舌の両側の違和感が2週間以上続くようなら…
舌の両側の違和感が2週間以上続くようなら…

 人生の楽しみの一つに食事があると思います。そんな楽しみを奪いかねないのが舌がんで、女流棋士の堀彩乃さんが罹患したことを公表されました。まだ29歳。この報道に驚いた方は、少なくないでしょう。

 日本女子プロ将棋協会などによると、堀さんは昨年2月、口内炎のような症状で歯科医を受診。舌に歯が当たっている可能性があるとのことで、かみ合わせの調整やマウスピースで様子を見たといいます。

 ところが、痛みが増してきたため、同年12月、専門病院で精密検査を受けたところ、ステージ2の舌がんとの診断が。今年1月31日に舌の半分とリンパ節を切除し、舌を再建する手術を受けたといいます。

 1年間にがんと診断されるのは約100万人。そのうち舌がんは4000人と少ないものの、増加傾向です。舌には食べたものを咀嚼し、のみ下す機能があるほか、音の構成機能も重要。舌がんはまれながんですが、治療によって日常生活に重要な機能が奪われる恐れがあるので厄介です。

 そのためには、早期発見に尽きます。舌がんは舌の先端や中央にできるのは少なく、多くは両脇にできます。堀さんも気にされたように、自覚症状は口内炎です。口内炎はせいぜい10日程度で治りますから、舌の両側の違和感が2週間以上続くようなら、舌がんを疑って大きな病院の耳鼻科を受診するとよいでしょう。舌がんに詳しい口腔外科もお勧めです。

 入浴や歯磨きのときなどに親指と人さし指で舌の両側を触ってみるセルフチェックもよいでしょう。硬く感じる部分があれば受診を。舌がんは、乳がんと同様にセルフチェックが効果的です。

 舌がんを含む口腔がんは飲酒と喫煙のほか、手入れの悪い歯並びがリスクになります。虫歯で欠けた歯、合わない義歯や入れ歯、悪い歯並びなどを放置すると、慢性的な舌への刺激が口内炎を生み、平均10年を経てがん化するのです。

 舌の奥にできる舌根がんは分類上、中咽頭がんに属し、中咽頭がんは6割がオーラルセックスによるHPV感染が原因。舌がんも1割がHPV感染が原因とされますから、セックスの後の歯磨きやうがいは口腔がんの予防になります。

 このようなことに注意しながら早期発見できれば、食べる、しゃべるといった舌の機能を維持することができます。それがステージ2まで。この段階なら、手術でも部分切除が可能で、後遺症も限定的です。さらに放射線の小線源治療なら、切除しないので、より後遺症が少なくなります。

 舌がんは、専門医なら比較的容易に診断がつきますが、今回のケースのほか、タレントの堀ちえみさんも当初に一般の歯科医の受診で見落としがありました。「2週間以上続く口内炎は専門医で」を頭に入れておいてください。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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