高校時代の私に、肩の脱臼ぐせを根本から解決するため手術を勧めてくれた整形外科医とのやりとりは今でも覚えています。画像検査の結果、肩の骨が一部欠けていて、靱帯が損傷していることを、肩の模型を使って説明してくれました。
さらには、正常な肩との比較も。私のような「なんで手術が必要?」と疑問を抱く患者も納得するような、懇切丁寧な説明でした。この時の経験を、今、私は患者さんに説明する際に生かしています。
一度脱臼すると、肩の中の靱帯が緩み、何度も繰り返しやすくなります。整骨院で肩をはめ直しても、損傷した肩にアプローチした治療を行わない限り、「根本的治療」にはなりません。
2021年、「TheAmericanJournalofSportsMedicine」という整形外科領域で非常に権威ある医学誌で、フランスの施設が、初回肩関節脱臼をした40人を手術群と外固定群(三角巾や装具で固定する保存療法)に分け比較した研究を発表しました。それによると、手術群の方が有意に再脱臼を防ぐ率が勝っていました。
また、22年に同じ雑誌でコロラドの施設が、複数の信頼性の高い研究を統計解析した結果を報告。20歳代の活動性の高い男性の初回肩関節脱臼において、手術療法が外固定療法より再脱臼を防ぐことが有意に期待できるというのです。
基本的にこの2つの研究の結論は同じです。医療技術の発展や肩関節脱臼の研究が盛んになったことで、「脱臼は手術が望ましい」という考えが医師の間で浸透するようになってきました。
手術をすると、術後のリハビリが必要であり、しばらくスポーツを休まなければなりません。それが嫌なあまり、「手術だけは避けたい」と考える方は結構おられます。
その気持ちは理解できますが、末永く状態のいい肩を保ち続けるためには、手術できっちり治した方がいいと考えます。
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