医療未来学者が語る 5大国民病のこれから

糖尿病は生活習慣病から遺伝子病へ 診療と治療は今後どう変わるのか

ウエアラブル計測機器が切り札に(写真はイメージ)
ウエアラブル計測機器が切り札に(写真はイメージ)

 遺伝子を使った診断や治療など医療技術の進化、AIやロボットの導入、医療DXによる診療の効率化など、医療を取り巻く環境は劇的に変化することが予想されている。そんななか日本人を苦しめてきた5大疾病(糖尿病、急性心筋梗塞、脳卒中、がん、精神疾患)の診断と治療はどう変わるのか? 「未来の医療年表」(講談社現代新書)の著者で医療未来学者である奥真也医師に聞いた。1回目は糖尿病だ。

 糖尿病とは血糖値が慢性的に高くなる病気で、この状態が長く続くと全身の血管に障害が起こり、失明、腎不全、足の切断、心筋梗塞や脳梗塞などの重大な合併症を引き起こす。膵臓のβ細胞が破壊され、インスリンの分泌量が不足して発症する1型と生活習慣が関係する2型があり、現在、1000万人ほどが罹患していると推定されている。

「1型より2型の患者さんがずっと多いため、糖尿病といえば生活習慣に関係する病気と思われがちですが、病気のなりやすさや発症には遺伝子が強く関係していることが明らかになりつつあります。2035年までには発症に関係する遺伝子がすべて特定され、それに関連した検査、診断、治療が行われ、2040年ごろには糖尿病は臨床上、解決できている可能性があります」

 すでに1型については15以上の遺伝子領域が、2型についても10種類以上の遺伝子領域が糖尿病発症に関与していることが解明しつつあるという。しかし、遺伝子が同じ双子でも糖尿病になる人とならない人がいる。そのため、遺伝子の塩基配列の変異以外のメカニズムで遺伝子の変異を制御して生体に変化をもたらす「エピジェネティクス」の研究が注目されている。食事や運動など、どういうときにその現象が起きて糖尿病を発症させるのかの研究も進んでいる。

 さらには計測機器による糖尿病の予防も今後、劇的に変化すると奥氏は言う。

「糖尿病の人はいきなり糖尿病になるわけではありません。多くの場合、糖尿病になりやすい遺伝子を持った人が糖尿病のスイッチ(エピジェネティクス)を押す不摂生な生活を続けた結果、発症します。その間、血糖値の悪化を知れば、不摂生を改める努力をするでしょう。従来は血糖値は病院に行かなければ計測できませんでしたが、今後は手軽に長期間計測できるようになり、糖尿病予備群の多くは健康を取り戻せるようになるでしょう。その切り札になるのがウエアラブル計測機器です」

 すでに2週間連続計測できるパッチ式の血糖測定器が市場に出ている。皮膚の下まで刺した極細の針が体液から血糖値を数分ごとに自動計測する仕組みだ。ほかにも、端末内蔵の発光ダイオードやレーザーで、手首や指の皮膚に光を当て、反射したり散乱した光の強さや反応を計測することで血糖値を測る腕時計型や指輪型の血糖測定器も使われ始めている。

「最先端の技術には、今はまだ測定値の信頼性に欠ける部分があるため、正式な医療機器とは認められていません。しかし、いずれは従来通り血液採取で得られた血糖値のビッグデータとそれぞれの測定器の数値との相関を調べることで、より正確な数値が得られるようになるはずです。そうなれば、穿刺の痛みなどに苦しむことなく、正確な血糖値を知ることができ、自分自身で生活を改めることができるようになります」

奥真也

奥真也

1962年大阪生まれ。東大医学部卒業後、フランス留学を経て埼玉医科大学総合医療センター放射線科准教授、会津大学教授などを務める。その後、製薬会社、薬事コンサルティング会社、医療機器メーカーに勤務。著書に中高生向けの「未来の医療で働くあなたへ」(河出書房新社)、「人は死ねない」(晶文社)など。

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