腰痛治療最前線 検査で異常が見つからない慢性痛を改善する

痛みゼロを目標にしない
痛みゼロを目標にしない

 慢性的な腰痛でつらい。何か打つ手はないのか。福島県立医科大学整形外科学講座准教授の二階堂琢也医師に話を聞いた。

「腰痛をはじめとする身体的な痛みには、大きく分けて侵害受容性疼痛と神経障害性疼痛があります」

 ケガをすると患部に炎症が起こり、侵害受容器が活性化される。その信号が脊髄を通って脳に送られることによって引き起こされる痛みが侵害受容性疼痛だ。

 一方、神経障害性疼痛は文字通り、神経の障害で生じる。なんらかの原因で神経が障害されて異常な興奮をすることで引き起こされる痛みだ。神経自体が過敏になり、ささいな刺激でも痛みとして感じる。運動器疾患では、腰部脊柱管狭窄症、頚椎症性脊髄症、手根管症候群などが神経障害性疼痛となる。

「これまで痛みを訴える患者さんには、ロキソニンを代表する非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs=エヌセイズ)を出すのが一般的でした。しかし、NSAIDsは侵害受容性疼痛には効果があるものの、神経障害性疼痛には適していません。どちらのメカニズムに該当するのか、痛みのメインは何かを判断し、薬を使わなくてはならないのです」

 神経障害性疼痛であれば、まずは過敏な神経の状態を正常に戻さなければならない。ガイドラインで推奨されている薬の第1選択がプレガバリンやアミトリプチリン、第2選択がノイロトロピンや弱オピオイド鎮痛薬、第3選択がモルヒネ。NSAIDsは、推奨する薬となっていない。

 腰痛で整形外科を受診するとよくあるパターンが、〈レントゲン検査後「異常が見られない。とりあえずお薬を出しましょう」とNSAIDsが処方される〉というものだが、それでは腰痛が改善しない可能性がある。

「腰痛の場合、レントゲンでわかることは限られています。それでも行うのはレントゲンでわかるような重篤な病気が隠れていないかを確認する必要があるからです」

 侵害受容性疼痛か神経障害性疼痛かは、痛みのある場所、どういう姿勢や動作で痛みが強く出るか、いつから痛みが生じているのか、これまでの治療歴などで判断する。混ざり合っているケースもあり、その場合は、どちらのメカニズムがより痛みに関係しているかを探りつつ、治療に入る。

「最初は侵害受容性疼痛に効く薬を出し、様子を見て神経障害性疼痛の薬に切り替えていくことも少なくありません」

■「痛みゼロを目標にしない」

 患者側が知っておくべきこととして、まず「痛みゼロを目標にしない」。

「痛みをゼロにすることを目標にすると、なかなか達成できない。それよりも、達成可能な別の目標を設定することが重要です。目標を達成すると、脳報酬系が活性化し、慢性痛の軽減につながることが近年の研究で明らかになっているのです」

 目標はなんでもいいが、前述の通り「達成可能」なもので、かつ、短期的な目標をいくつも立てることが望ましい。たとえば、「ディズニーランドを歩いて回れるようにする」という目標を立てたとする。そこまでいくには時間がかかりそうなので、「1日5分継続してできる運動をする」といった短期的な目標を立てる。それが達成できたら今度は「1日10分」を目指す。

 体を動かすことも慢性的な腰痛を軽減させる。1980年代以降、運動が痛みに与える効果を証明する研究成果が多く報告され、薬に頼らないで痛みを軽減できる方法として慢性疼痛診療ガイドラインでも強く推奨されている。

「翌日は疲れて動けなくなってしまうような、過剰なものは逆効果になる危険性があります。自分の能力に合ったレベルで、毎日行える運動を選んでください。報酬系の活性化にもつながります」

 腰痛がひどいから安静に……は間違った考え方。最新の知識で腰痛対策を講じよう。

■新薬登場

 侵害受容性疼痛に使われるNSAIDsで、新しいタイプの薬が登場している。それは「貼り薬」。飲み薬より薬効成分の血中濃度が安定しやすい。処方薬になる。

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