病気で安静にしていると「寝たきり」につながる危険がある

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 風邪をこじらせてしばらく寝込んでいたら、いざ歩こうとしたときに足に力が入らない--。そんな経験がある人は少なくないのではないか。病気やケガで数日間以上安静にしていると、身体機能や精神機能が低下する「廃用症候群」(生活不活発病)が起こり、そのまま寝たきりにつながる危険もある。とりわけ高齢者は筋肉量が減っているため、短期間の安静でも発症する可能性がある。対策のポイントについて、東京女子医科大学病院リハビリテーション科教授の若林秀隆氏に聞いた。

 筋肉は運動を行うと増えるが、動かさないと衰えていく。個人差はあるが、1週間安静にしていると筋肉量は3.5~7%、筋力量は7~14%ほど落ちるとされている。全身の筋肉量のうち、70%は下半身の筋肉が占めているので、活動量が減って筋肉量が少なくなると下半身はそれだけ衰えやすくなる。そのため、安静の後に歩けなくなってしまうケースも少なくない。

 しかも高齢者は、若年者より筋肉量が減っているうえ、一度落ちた筋力を完全に元の状態に戻すには若年者の3倍の時間が必要という研究結果もある。それだけ、短期間の安静でも歩けなくなってしまうリスクは高くなる。

 これは「廃用症候群」と呼ばれる病態のひとつで、ほかにも、筋力の低下による呼吸器障害や嚥下障害、起立性低血圧や静脈血栓症などの循環器障害や床ずれといった皮膚障害、社会的な孤立などからくる抑うつなどの精神障害や認知機能低下が現れるケースもある。

「患者さんは70~80代に最も多く、入院などで体を動かさなくなり発症するケースが少なくありません。安静のために、今までできていた入浴や階段の上り下りをひとりでできなくなると廃用症候群と診断されます。また、転びやすくなった、歩くスピードが遅くなった人も要注意です。ICU(集中治療室)に入院している患者さんの場合、1日1キロの筋肉量が落ちることもあります。そのため、もともと筋肉量が少ない人は亡くなってしまうこともあります。病気になったときは安静がよいと思われがちですが、麻痺が悪化している脳梗塞や循環機能がとても悪い心不全などを除き、安静の方がよい病気はほとんどありません」

 実際、一部の医療機関では入院患者の活動量を落とさないような取り組みを実施している。自分で立てる人であれば3~4秒かけてゆっくり立ち上がり、3~4秒かけてゆっくり座る椅子からの「ハーフスクワット」(起立訓練)を行っている。座位保持がやっとな人でも、座ったまま「もも上げ」をすると筋トレになるという。

■低栄養は廃用症候群のリスク大

 自宅療養や入院での廃用症候群による寝たきりを防ぐためには、日頃から体を動かすように努めて筋肉の“貯金”(貯筋)をしておくのが効果的だ。

「歩ける人は毎日30分ほど散歩するといいでしょう。可能であれば早歩きを意識し、30分が難しければ15分など自分ができる範囲で体を動かすことを心がけてみてください。家の中だけで生活していると体の動きが少なく筋力は低下しやすくなります。ですから、1日1回は外に出て歩くことが大事です。運動は1人よりも2人以上で行うと続きやすいので、時間が合えば誰かと一緒に散歩してください。体調が悪くて外出が難しいときは、たとえば高熱で寝込んでいても、自力で歩いてトイレに行ったり入浴したりするなど、ひとりでできることは自分でこなすことが大切です。家族はひとりでできることまで過剰に手伝わないことが大事です」

 廃用症候群による寝たきりを予防するために大切なのは運動だけではない。「食事と栄養」にも注意する必要がある。

 廃用症候群を発症している人の約9割は低栄養状態になっているという。筋力の低下によって日常の活動量が少ないことや病気で、お腹がすかず食事量が減ることと病気のためだ。

「ほとんど外出せず活動量が少ない人で、痩せようと思っていないのに半年で体重が2~3キロ以上落ちていたら、低栄養状態で廃用症候群を発症している可能性があります。療養中も含め、日頃から栄養バランスを整える食事を意識しましょう。魚、油、肉、牛乳、野菜、海藻、いも、卵、大豆、果物の中からほぼ毎日7個以上の食材を取ると、身体機能が低下しにくいです。『さあにぎやか(に)いただく』と覚えてください。また、体重の減少は低栄養を発見するために重要な指標になります。定期的に体重を量り、動きやすいと感じる自分のベスト体重を把握して維持することが大切です」

 廃用症候群を発症すると、筋力が衰えている高齢者は完全に回復することが難しく、そのまま寝たきりになってしまうと家族の負担も大きくなる。日頃から運動と栄養バランスの整った食事を心がけ、予防に努めよう。

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