名医が答える病気と体の悩み

65歳未満で発症する若年性認知症になったら仕事は続けるべきか

仕事の継続が難しい場合はボランティア活動などに参加を(C)PIXTA
仕事の継続が難しい場合はボランティア活動などに参加を(C)PIXTA

 一般的に高齢者に多い認知症のほかに、65歳未満で発症する「若年性認知症」があります。女性に比べ男性に多く、働き盛りの50代で発症するため仕事を辞めてしまうと収入がなくなり、家計に大きな影響をもたらします。また、家のローンや子供の学費が残っている家庭では、経済的に困窮するケースもみられるので、発症後の仕事の継続は大きな課題になっています。

 若年性認知症の発症後も仕事を続けると、認知機能低下の進行速度を遅らせる可能性があります。ですから、患者さんには仕事の継続を勧めています。

 仕事で人と会話をするときは、家族や友人と接するときとは異なる言葉を使います。たとえば、営業職の人はどういう話し方をすれば相手に伝わりやすいか、取引先に失礼がない言い回しをできるかなど、頭の中で言葉を組み立てながら話すので脳をよく使うことになるのです。特にアルツハイマー型認知症の場合、構成力が失われる症状がみられます。そのため、料理や旅行の段取りが困難になるのですが、仕事をしていると一日のやるべき業務のスケジュール管理が必要なので、構成力が鍛えられ、認知機能を比較的維持することができるのです。

 さらに、仕事の継続によって、認知症でも自分には仕事がある、会社という居場所があるといった自尊心や自立心、やりがいや生きがいが保たれ、認知機能だけでなく精神面も安定します。

 実際、私が見ている限りでは診断後に本人が会社に迷惑をかけられないといって仕事を辞めてしまうことが多い印象です。ですが、特に男性の場合、退職をきっかけに急激に悪化するケースがよく見られます。それまで仕事中心の生活をしていた人が退職すると、仕事という習慣がなくなって目標が失われ、だんだん意欲も低下して外出せず閉じこもりがちになります。その結果、周囲との関わりがなくなってさらに脳が刺激されず、認知機能が徐々に低下していきます。

 若年性認知症と診断されても、患者さんは診断結果と今自分が苦手と感じていることを会社へ包み隠さず相談し、部署異動などの配慮をお願いするといいでしょう。会社が異動に対応してくれるなら、それに甘えて働き続けてください。会社側は、患者さんに現時点での得意・不得意をヒアリングしながら患者さんができる範囲の業務を任せて、困っているときには手を差し伸べてあげてください。

 家族も同じです。患者さんが電車に乗って通勤する場合、駅までの道が時々分からなくなってしまうのであれば駅までの送迎が必要ですが、一人でも大丈夫なら過度に手伝わず、自立心を保たせることが大切です。

 会社での異動が難しく職場に居続けることができない場合、近くの「就労継続支援事業所」を頼るのもおすすめです。また、認知症の進行によって仕事の継続が難しい場合は、地域のボランティア活動に参加するといいでしょう。若年性認知症と診断されても、社会的つながりを絶たないことが重要です。

▽塚本浩(つかもと・ひろし) 帝京大学医学部神経内科研修医、同大学医学部神経内科助教、ローマ聖心カトリック大学(Università Cattolica del Sacro Cuore' Roma)留学などを経て、帝京大学医学部神経内科・医学教育センター助教、同大学医療技術学部臨床検査学科准教授。東京医科大学茨城医療センター脳神経内科臨床准教授。現在は、けんせいクリニック院長、筑波大学付属病院臨床教授(病院)を務める。著書に「老化をとめる脳習慣」。

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