18歳の男子学生が、肩の脱臼で私の外来を訪れたときのお話をしたいと思います。
彼はK大学のテニス部に属しており、それまで計8回の脱臼を経験していました。診察時、最善の治療法として提案したのが手術です。以前、本欄でも紹介しましたが、脱臼は何度も繰り返し、特に活動性が高い若い男性はその傾向が強いからです。「脱臼8回」ということがまさに、それを表しています。
しかし、男性は首を縦に振りません。「脱臼の根本的治療は手術だけ」と説明し、再発の高さを過去の研究結果から数字で示しても、「手術は嫌。しかし、肩の脱臼は治したい」の一点張りです。
私が常々思っているのは、患者さんが医師側の提案をかたくなに拒否する場合、その深層心理に何があるのかを読み解くことが非常に重要である、ということ。それを無視して「◎◎という治療法がいい」と述べても、一方通行になってしまいます。
よくよく話を聞くと、その男子大学生は、手術でどれくらいよくなるのかに、まず関心があった。
そこで私が取った方法は、同じ病気で私が手術をした方を紹介し、お互い話をしてもらうということ。
外来の待合室でそれが可能となりました。私も驚いたのですが、手術経験者の男子学生は、脱臼8回の男子学生と同じ大学、同じ学部の先輩でした。境遇が近く親近感や安心感を覚えたからでしょうか、手術後のリハビリの様子、運動復帰までにどれくらい期間を要するかなどを先輩から聞いた後、「それなら手術を受けたいです」と、意見を翻したのです。
このような経験からも、もし治療法に迷っているなら、セカンドオピニオンで医師の意見を聞くより、同じような病気で医師が勧める治療法を受けた方の経験談を聞くことをお勧めします。
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