「顎関節症」を治すために知っておきたいこと 原因は何か?

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 顎関節症は、「一生の間に2人に1人は経験する」という報告もあるほど、悩む人が多い病気だ。「いまにし歯科診療所」(東京・世田谷区)の今西祐介院長は、「顎関節症の適切な治療を受けられず、それによって二次的な症状を抱えている人もいる」と指摘する。

・口を開けようとすると顎が痛い
・顎が痛くて口を開けられない
・顎を動かすと変な音がする


 この3つが、顎関節症の典型的な症状だ。

「口を40ミリ以上開けられるかどうか。握り寿司1貫をそのまま口に入れられるかを目安にするとわかりやすいでしょう。顎関節症がひどい患者さんでは、口が10ミリ程度しか開かなかった人もいました」(今西院長=以下同)

 顎関節症は、二次的な症状も招く。頭痛、耳鳴り、目の疲れ、首・肩の凝り、腰痛、女性なら月経痛などだ。顎関節症の改善に伴い、頭痛や凝り、月経痛などが改善した人は珍しくないと、今西院長は話す。

 顎関節症を引き起こす要因は多岐にわたる。

「代表的なのは、噛み合わせの不正、歯列の不正、度重なる歯の食いしばりや歯ぎしり、そして悪習癖です」

 悪習癖とは、左右どちらかに偏って噛む癖がある、頬杖をつく、体のどちらか一方を下にして寝る癖がある、など。コロナのマスク生活で、マスクと口の間に隙間をつくろうと変に顎を動かす癖がつき、顎関節症の症状が出てきた人も。

「うつむいてスマホを長時間見ている人では、上下の歯が接触しがち。本来、上下の歯は離れており、接触するのは物を噛む時とのみ込む時だけ。接触時間は1日20分程度といわれており、接触したまま長時間過ごすと、顎にかなりの負荷をかけます。これも顎関節症の要因です」

 さらにはストレス。受験シーズンに「顎が痛い」と訴えてくる学生が増えるそうだが、「合格すると、顎の痛みがなくなる人は結構います」。

■抜歯が引き金になるケースも

 顎関節症の二次的な症状として、首・肩凝り、腰痛、月経痛などがあると前述した。なぜ? と疑問に思ったかもしれない。

「噛み合わせや歯列の不正など口の中に問題があると、体の微妙なバランスの崩れにつながります。転倒しないように体で何とか調整しようとするため、首、肩、腰に凝りや痛みが生じる。骨盤が歪み、骨盤内の血流が滞って、骨盤内部にある女性器に負担を与え、月経痛が起こるのです」

 歯科治療によって顎関節症に至ってしまったケースも、今西院長は何度も経験している。

「歯を削ったり歯列矯正をしたり、というのは、それをやった後、正しい噛み合わせになっているかを慎重に確認しなければなりません。それが不十分だと、治療後にかえって噛み合わせが悪くなり、顎関節症になってしまうのです。入れ歯が合わずに顎関節症になっている人もいます。私は不要な抜歯は反対という意見ですが、その抜歯で噛み合わせが悪くなり顎関節症に至った患者さんも少なくありません」

 厄介なのは、顎関節症の治療に力を入れて行っている歯科が多くはないということ。特に音だけで痛みがない顎関節症では、歯科医にかかっても顎関節症の治療はせず放置されてしまうこともある。しかしそれが、全身の不調を引き起こしてしまう可能性がある。

「顎関節症があれば、何でそれが生じているのか。噛み合わせが問題ならその矯正が不可欠です。また、今は良くなっても、ストレスが生じればまた顎関節症がひどくなることも。だから私は完治を目指すというより、生活に支障が出ないところまで症状を抑え、今後はうまく付き合っていく方向で治療にあたっています」

 疑う症状があるなら歯科へ。ただし、最初に顎関節症の治療をやっているか確認する。今西院長は顎関節症の治療の目安を3カ月としているそうだが、治療を受けているのに3カ月を超えて何の変化も見られなければ、セカンドオピニオンを受けるか、思い切って違う歯科に替えるか。念頭に置いておこう。

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